建設産業の新たな針路「産・学・官連携」 シンポで建設環境、情報、マイクロ機械の最新技術を紹介 立命館大学総合理工学研究機構防災システム研究センター(児島孝之センター長・立命館大学理工学部教授) は1月26日、京都センチュリーホテルで産官学連携による「防災と安全のための複合システム研究拠点を目指 して」 複合大規模センサシステムおよびロバストネットワークの構築 と題した第四回「防災・情報システ ムシンポジウム」を開いた。同シンポジウムは、文部科学省私立大学学術研究高度化推進事業「ハイテク・リ サーチ・センター整備事業」で採択されたプロジェクトに沿って研究を進めている成果を、建設環境系、情報 系、マイクロ機械系の各分野の研究者3名が最新情報を提供したもの。また、防災関係の優れた技術を紹介し た数多くのポスターが展示され、会場は約100人の出席者で賑わった。なお、シンポジウムには関西学院大学 災害復興制度研究所主任研究員・教授の山中茂樹氏を招待し、「災害報道の社会学 発災報道と復興報道の課 題を探る」をテーマにした招待講演も行われた。 防災システム研究会に民間企業29社が参加 立命館大学は、「防災」に強い関心を持ち、また「防災システム」を直接的な研究対象とする多くの研究者が 集まっている。こうした背景のもと、採択された国のハイテク・リサーチ・センター整備事業「複合大規模セ ンサシステムおよびロバストネットワークの構築」プロジェクトを推進するために、総合理工学研究機構に防 災システム研究センターを2005年4月に開設し、会員制による防災システム研究会を立ち上げた。現在、建設 環境系、情報系、電気系、マイクロ機械系の研究者が融合して防災テクノロジーの一大拠点構築に取り組んで いる。その活動は、従来の防災研究拠点にはない新しい試みとして、関係者の熱い視線を集めているのが現状 だ。 同シンポジウムであいさつに立った児島センター長は、「いま防災に関するニーズが高まっており、私たちが 進めている研究は当を得た事業である。実効性のある防災システムの提案を目指し、新たな産官学地連携によ る防災対策を確立させたい」と、同研究会の役割と使命を改めて強調した。 その研究成果では、深川良一・理工学部都市システム工学科教授の研究グループによる「センサーネットワー クを利用した次世代型斜面防災システムの構築」が、国土交通省道路局の公募研究「道路政策の質の向上に資 する技術研究開発の募集」に応募して採択された。同研究センターに集まる研究者が中核になったもので、ハ イテク・リサーチ・センター整備事業に新たな研究展開をもたらした典型例であり、同時に防災分野での異分 野融合の魁の1つとして注目されている。 今回、同シンポジウムで報告された研究やポスターセッションによる技術は、いずれも防災対策に必要不可欠 なもの。 3名の研究者が報告した研究テーマと講演要旨は次のとおり。 「強風による構造物の振動とその制御技術」 小林紘士・立命館大学理工学部都市システム工学科教授。 小林教授は構造物の風による事故の例として、イギリスやアメリカなどで、当時長大橋と言われた橋が強風で 実際落橋し大きな被害を受けたこと、また、日本でも東京湾横断道路がタワー振動を起こしたほか、明石海峡 大橋が台風により震動吸収装置が壊れた事例を挙げた。 こうした背景を踏まえて、様々な実験の結果、渦励振は隅角部からの剥離渦が原因として、音響による渦励振 制御で安定性が得られると、またパッシブローターによる渦励振防止はかなりの効果がみられたと紹介。さら に超長大吊橋のフラッターコントロールについては、扁平な桁に「ウィングレット」または「フラップ」を取 り付け、それをアクティブにコントロールすることで耐風安全性を確保でき、かつ経済的に建設できると強調 した。 「幸いなことに日本で は風によって構造物が 振動して、それによる 死傷事故は起こってい ません。し かし、その 可能性を秘めており、 重要な問題です。まだ このような提案は実用 化されていませんが、 将来採用される可能性 は十分あると思っています」 「検索・セキュリティ・防災技術による新産業革命」 岸本了造・立命館大学情報理工学部情報コミュニケーション学科教授。 岸本教授は、2006年のアメリカのネット小売市場規模が前年比20%増の2,114億ドルになる見込みで、この3 年間で市場は3倍に拡大しこと、また、ソーシャルネツトワークが急激に伸びており、都市、都会の概念を変 貌させる可能性があることなど、テレビ、新聞、雑誌、ラジオの利用時間が減って圧倒的にインターネットが 従来のメディアに変わりつつある社会現象を紹介した。 こうした中、セキュアサービスプラットホームの提案や次世代のインターネットアーキテクチャの提案を挙げ たほか、防災・防犯とネットワークセキュリティが極めて重要な産業になってくると指摘した。 「21世紀の都市を 日本から提案していこ うと考えています。高 齢者や障害者に優しい 防災に強い社 会、地域、 都市をつくることによ って、かつ新しい産業 が発展して世界に貢献 できるものと思ってい ます」 「防災移動体無線通信システム用アンテナの低消費電力化および小型化のための研究」 鈴木健一郎・立命館大学理工学部マイクロ機械システム工学科教授。 鈴木教授は、低電圧駆動、高アイソレーション、高速、マイクロスイッチの開発などを挙げた。具体的にはR E−MEMSスイッチの問題点は駆動電圧が高いことを指摘。低電圧化は二段階駆動スイッチにより電圧を半 分に軽減できること、また、広周波帯の可変MEMSデバイスによって機器の小型化・集積化が可能になるこ と、非線形ばねによる高速化など、最新技術を詳しく紹介した。 「小型化したマイクロ スイッチの研究を進め います。そのメドがつ き、今年中には100 個乗ったア ンテナのシ ステムが紹介できるも のと思います。これに よって新しいアンテナ の開発も可能になり、 防災関係にも役立つも のと確信しています」 …水谷次郎… 立命館大学防災システム研究 防災システム研究センターの拠点となる「防災システムリサーチセンター」が平成17年3月に完成し、会員 制による「防災システム研究会」を発足させた。現在、滋賀県内の地場産業、大阪ガス、関電、NTT企業グ ループ、ゼネコンら29社が会員に加わり、近畿地方整備局、阪神高速道路会社、滋賀県、大津市、草津市、守 山市がアドバイザーとして参加。2005年度からセミナーや研究会を開催し、最新の研究成果の報告、国内外の 技術動向の調査・分析を実施するなど、各プロジェクトを産官学地連携で進めている。