
道路など社会基盤の整備促進へ、行き過ぎた安値受注には歯止めを 建設業界を取り巻く環境は、長引く公共投資の減少による中堅・中小企業の経営圧迫、 ダンピング問題やそれに伴う品質の低下など、今年も多くの問題を抱え予断を許さない 状況が続いている。そこで、新たな観点から昨年10月に就任した近畿地方整備局の深澤 淳志企画部長に、近畿の印象から今後の展望、品質確保などについて聞いてみた。 品確法は2007年度末にフォローアップ
――企画部長に就任されて4か月が経ちました。まずはじめに近畿の印象からお伺いします。 ◆深澤部長:近畿地方整備局での勤務は、1989年に道路部、1990年に企画部で仕事をして以来、17年ぶりで す。当時はまさにバブルの時代で、関西国際空港の対岸に建設されるりんくうタウンのツインタワー構想など があったり、大阪湾岸道路の計画が進むなど、近畿に夢がありました。久しぶりにこちらに来て思ったのは、 当時のような大きな夢が少なくなったためか、心なしか昔に比べて少し元気がないな、といった感じでした。 しかし、御堂筋再生で頑張っている人たち、経済界の人たちのお話を伺っていると、決してそうではなく、 「関西を何とかしたい」という熱い思いを皆さんが持っておられるのがよく分かりました。今後もそうした人 たちと連携をとりながら、近畿がもっともっと元気になるようにお手伝いができればと思っています。 ――社会資本の整備状況については、どのようにみておられますか。 ◆深澤部長:近畿が抱えている様々な問題の中で、私はその1つとして、道路のネットワーク拡充を急がなけ ればならないと思っています。近畿の幹線道路はまだ繋がっていません。名古屋の東名環状道路は、73?が一 気に開通しました。それによって、それまで売れなかった工業団地が完売しました。やはり、基礎になるイン フラ整備を着実に進めていかないと、経済に与える影響も大きいと思います。大阪港や神戸港でも、いまスー パー中枢港湾事業の整備が進められていますが、港の整備だけでなく、アクセス道路や物流拠点などもいまか ら整備しておく必要があると思っています。道路のネットワークが構築され、空港や港湾などと連携すること によって初めてそれを前提にした産業が立地し、効率よい経済が動きます。その意味から言って、近畿の社会 基盤はまだまだ不十分で、私はここ10年が勝負だと思っています。京奈和自動車道、淀川左岸線や第二名神 高速道路、大阪湾岸道路など、必要なネツトワークは計画されています。また、近畿は歴史や文化に富み自然 も豊かで、大阪などは産業の集積もあります。道路のネットワークが出来上がり、関西の得意な分野が生かさ れると、近畿は必ず再生されると思っています。 ――関西もいまが頑張りどころなんですね。話は変わりますが、公共投資の減少やダンピング対策についてお 聞きします。 ◆深澤部長:公共投資は、ピーク時の1995年頃に比べて半分以下になりました。建設業界が置かれている環境 は、非常に厳しいと思っています。私は1999年に大臣官房建設技術調整官として入札契約の担当をしていまし た。実際、近畿に来て現場でのお話をお聞きすると、当時私がその仕事をしていた時と比べて、さらに厳しい 状況だと痛感しています。こうした背景からも激しい受注競争によってダンピングが増えくるんですね。しか し、低価格入札は品質の面で大きな問題があります。それともう一つの懸念が下請企業へのしわ寄せです。建 設業は重層構造であり、下請企業の方々にとっても、生活が安定しなければ建設業全体が崩れてしまう。行き 過ぎた安値受注を止めないと、建設産業自体がおかしくなるのと同時に、国民全体にとって重要な産業の基盤 がなくなってしまう恐れがあります。 ――おっしゃるとおりです。価格以外の品質も評価する総合評価落札方式では、府県や市町村の対応の遅れが 指摘されています。 ◆深澤部長:府県や市町村は、国と比べて技術者の数も少ないため、国と同じ手法で総合評価を実施すること は困難だと思います。工事の難易度について、それほど難しくない工事については、もう少し簡単な方式も取 り入れてもいいという考え方もあります。複雑なものから簡便なものまでメニューを用意しておき、技術的な 面でご相談があれば、私たちも協力させていただくという方向に進めば府県や市町村も取り組みやすいと思い ます。それと、私がよく申し上げているのは、国、府県、市町村が造る、そのトータルが社会資本の整備だ と。すべて一体となって機能しているわけですから、国だけ頑張っても意味がありません。府県や市町村もい っしょに頑張っていただきたいと思います。私たちも、ご協力できる部分については最大限応援します。 ――2005年4月に「公共工事の品質確保の促進に関する法律」(品確法)が施行されました。当面の目標をお 聞かせ下さい。 ◆深澤部長:品確法が施行されて3年経った2007年度末にフォローアップすることになっています。その時点 で少なくとも市町村も含めてすべての発注機関が、1回は総合評価方式に挑戦してほしいという目標を持って います。やはり、総合評価の意義を市町村までご理解いただき、みんなが汗をかいて努力しなければ、この目 標は達成できないと思います。 ――新技術の活用も重要なテーマです。 ◆深澤部長:国土交通省は、「公共工事等における新技術活用システム」(NETIS)を構築しています。 これは民間の技術を私たちが評価し、現場で使えるよい技術は積極的に使っていこうというものです。採用し た技術評価の結果も、すべて公表しています。 ――産学官連携による新技術の普及は、企業ニーズと大学の研究シーズのマッチングが難しいと言われいま す。 ◆深澤部長 :産学官連携では、私たちと大学との交流がまだ不足しているように感じています。会議も年に 1回程度でなく、もう少し頻繁に行ったり、また、会議がその場限りで終わるのではなく、現場で技術をどう 生かしていくか、その仕組みづくりが大事だと思っています。 ――総合評価方式での民間の技術提案はいかがですか。 ◆深澤部長:各企業からは安全度のアップなど、いろんな技術提案をいただいています。その中には、よく考 えて工夫された技術も数多くあります。提案された優秀な技術で、幅広く現場で生かせる技術であれば、今 後、私たちの標準的な仕様にも採用していくことになります。その点、総合評価方式は非常によい制度だと思 いますね。 ――昨年から試行的に実施されている入札ボンドにも注目しています。 ◆深澤部長:入札ボンドは、あくまでも企業の財務体質をみるためのものです。試行している大きな工事に参 加する企業は、もともと財務体質がしっかりしているわけですから、効果についてはもう少し多くの工事に適 用してみなければ結果が出ないのかもしれません。 ――最後に防災対策についての方針を。 ◆深澤部長:東南海・南海地震など、いつ発生しても対応できるような災害計画を立て、それを遂行できる体 制を府県も含めて構築していかなければならないと考えています。 ――きょうは大変お忙しい中、ありがとうございました。部長の今後のご活躍に期待しております。 ◇編集部:水谷次郎 ふかさわ・あつし 1979年3月東京大学工学部土木工学科卒。同年4月建設省(現国土交通省)入省、1989年4月近畿地方建設局 (現近畿地方整備局)道路部計画調整課長、1990年4月同企画部企画課長、2001年1月大臣官房技術調査課建 設技術調整官、2002年7月同技術調査課技術企画官、2004年7月道路局企画課道路経済調査室長、2006年10月 近畿地方整備局企画部長。長野県出身、50歳。