都市再生機構西日本支社が25日、大阪市中央区のテイジンホールで「2007年度度研究 報告会」を開催した。特別講演として柏原士郎・武庫川女子大学生活環境学部生活環 境学科教授が「再生の突破口を探る」をテーマに、団地の魅力の指標でもある空き家 率の低減手法などについての話を展開した。 柏原教授は「77万戸もの既存賃貸住宅ストックを有する機構はおそらく、世界一の家 主。かなりの日本人が公団時代から何らかの関係を持っているかと考えられ、思い出 もあるだろう。住まい・住空間は人にとって根本的な問題であり、それだけにストッ ク再生に関しては国家的問題として取り組む必要がある」と前置きし、「都市やま ち、建築は生き物に例えられる。新陳代謝して、年を重ねると高齢化する。高齢者を 大事にすべきなのは人にだけではない」「まちや建築の再生に対し、今こそ真剣に考 えなければいけない」とその思いを語った。
環境のあるべき姿を考えた時、新しいものをただ作ればいいのではなく、そのモノの寿命をいかに持続させ るかが大事なのでは、と柏原教授。「物理学的ではなく生態学的な計画モデルに、再生の魅力がある」と持 論を述べる。再生主体については大きなテーマであり、とりわけ機構は「中間セクターとして果たすべき役 割は非常に大きい」とする。その役割は「移ろいやすい民間市場主義ではなく、ぶれない考え方を持って貢 献すること」と指摘。 その役割と特徴としては、 ▽膨大なストックをまちづくりにうまく活用 ▽民間が着手するにはリスクが考えられるもの ▽市場の補完 ▽信用性・信頼性―を、さらに団地再生の視点では ▽団地から魅力的なまちへ(住みたくなる居住地の条件) ▽賃貸集合住宅の再生(空き家の解消)をあげた。 まず、魅力的な居住地の条件では「家族の姿やライフスタイルの変化を前提に、いかに解釈するかが重要。 整ったゾーニングではなく、自然発生的に施設が混在するような、下町的生活要素も欠かせない」とし、そ のために「計画の段階で数年後に自然発生できるようなしかけをしておくこと。自然の力を利用する考え方 とも言える」。 空き家の解消では、立地環境から見た評価と活用対策を、関西圏のUR賃貸住宅を対象とした調査をもとに 考察した。家賃や築年数、住戸プラン、大規模か小規模かなど、タイプ別に団地をグルーピングし、その特 性を考慮した対策を説く。空家率改善のケーススタディでは、家賃減額、リニューアル、家賃増額(収益 増)などを紹介した。また、武庫川団地については、いかなるリニューアルで改善でき、団地活性化につな がるのかは「1DKから4DKの部屋タイプ別、採光面、和洋室の別、家賃別に空家率の分析を加える必要 がある」と話し、空家率の推移を解説した。 これらの話をふまえ、柏原教授は「スクラップアンドビルドからストック再生へ、その方策はタイプ別の処 方箋。規制緩和も必要で、研究を積み上げ、それを集中的活用できるようなプロセスづくりも求められてい る」と述べ、「処方箋は西洋より東洋医学的な鍼治療のような、点の刺激で周辺に大きな影響を及ぼすよう なものと考えてもらえれば。大きな力ではなく、再生のポイント、ツボを見つけて刺激すれば自然治癒力が 働き、全体が活性化するのでは」と話し、講演を締めくくった。