歴史都市・京都の新たな挑戦「新景観政策」 京都市が計画している新たな景観政策が、いま関係者の間で大きな関心を集 めている。市は豊かな自然と調和する京町家の保全・再生などに向けて、建 物の高さ・デザイン・屋外広告物・眺望景観を規制する関係条例に取り組 み、9月1日から実施する方針だ。こうした中、NPO法人・日本都市計画 家協会関西支部(小林郁雄支部長・神戸山手大学教授)は、一般市民にも市 の新景観政策について考えてもらおうと19日、京都視察や関西まちづくり交 流セミナーを市の協力を得て開いた。
同関西支部は、NPO法人・日本都市計画家協会(JSURP、黒川洸会長)が、関西から都市計画の新た な試みや提案を発信していこうと昨年11月に発足させたもので、交流セミナーは今回が2回目。 〜高さ規制の見直しなど京町家と調和へ〜 午前中に行われた京都視察には43人が参加。京都府立大学の宗田好史准教授の案内で、御池通り、姉小路通 り、新風館界隈、新町通り、明倫学区の現況を視察し、ビルが建ち並ぶ都心地区から古い伝統を残す京町家 までつぶさに見て回った。午後からは京都市景観・まちづくりセンターのひと・まち交流館京都で、京都市 の毛利信二副市長や早稲田大学の伊藤滋教授らを招き関西まちづくり交流セミナーを開催。80人が参加し、 講演や座談会に熱心に耳を傾けた。 同セミナーでは、京都市の毛利副市長が「歴史都市・京都の新たな挑戦、新景観政策について」〜時を超え 光り輝く京都の景観づくり〜をテーマに解説。スライドを使って、まず美しい京都の自然環境、世界遺産や 京町家などによる歴史的景観にふれた後、世界遺産の上賀茂神社周辺に建つ高層マンションなどの建設によ り京都の景観が喪失されてきている現状を紹介し、景観づくり審議会(2005年7月に設置)の中間答申 (2006年3月)や公開シンポジウムなどを経て、今年9月1日の施行に向け都市計画案や条例案の作業を進 めている現状を語った。 新景観政策の主な特色は、 ?高さ規制の見直し ?景観誘導型許可制度の創設 ?屋上景観の整備(勾配屋根の規制・誘導) ?デザイン規制の見直し(市街地景観の保全・形成) ?眺望景観創生条例の創設など。 特に問題となっている高さ規制は、歴史都心地区を含め歴史的市街地のほぼ全域を対象に、田の字地区は現 行の45mから31mへ、職住共存地区は現行31mから15mへ引き下げる。また、世界遺産などの周辺における 風致地区の拡充を図るほか、デザイン規制の見直しで美観地区・美観形成地区を1,956haから3,431haへ、南 部市街地などは建造物修景地区を6,704haから8,582haへ拡大する。さらにデザイン基準を種別から地区別基 準に変更して現行の二種類から四地区16地域に広げ、マルセル値による色彩基準なども設定し美しい古都の 景観を保全するとしている。 続いて早稲田大学の伊藤教授が「まちなみと景観」について特別講演を行い、「街路樹はまちづくりの大き な要素。汚れたコンクリートを隠してくれるし、夏には木陰にもなる。しかし、いま市民に愛されていな い。美しく手入れすれば、建築物も必ず生きてくる。高い建物には屋根をかけたほうがいい」と指摘した。 この後、「京都のまちなみと今後を考える」をテーマに座談会を開催。伊藤教授をコメンテーターに、毛利 副市長、宗田准教授、都心界隈まちづくりネットの石本幸良氏、明倫まちづくり委員会の河野泰氏の5名が 活発に意見交換した。 宗田准教授は、都心のにぎわいとまちなみ・町家再生について「京セラなど経済界や熱心な市民の取り組み により、職住遊に学が加わり、そのワク組ができあがってきた。新景観政策では、全国の先駆けとなる21世 紀の都市ビジョンを示してほしい」、毛利副市長は「国家戦略として、国にも京都再生に力を貸してほし い」と語った。石本氏は御池通り・姉小路通りのまちづくりについて、河野氏は明倫学区の地区計画につい てそれぞれ紹介。最後のまとめとして伊藤教授は、「まちづくりも国から地方自治体に権限が移ってきた。 しかし、まだ地元サイドだけではムリもある。都市計画は、国もどこかで責任を果たしていかなければなら ない。日本の伝統的な町家が残る京都は特にそうだ。国の利用の仕方もある」と、資金面など国との関り方 の大切さを語った。