大滝地区と迫地区の地すべり対策 近畿地方整備局は奈良県吉野郡川上村で建設している大滝ダムの試験湛水中 (2003年4月)に亀裂現象が発生し、白屋地区で地すべりが起こった件で、全 地区にわたって再評価を実施した結果、新たに地すべりの危険性が指摘された 大滝地区と迫地区の2地区について、今後の対策を検討する「大滝ダム貯水池 斜面対策検討委員会」を5日に設置、大阪市中央区のOMMビルで第1回目の 委員会を開いた。白屋地区とほぼ同様の抑制工と抑止工を実施し、安全率を 1.15倍に高めたいとしている。 近畿整備局は白屋地区での現象を踏まえ、昨年3月に大滝ダム貯水池斜面再評 価委員会を設置し、白屋地区以外の貯水池斜面のより詳細な地形・地質調査を 実施した。この結果、大滝地区と迫地区については、貯水した場合、斜面の安 定性の低下が大きいことが認められ、地すべり対策が必要との詳細調査結果を 取りまとめ、近畿整備局に提言書を提出した。今回の委員会はこれを受けて、 二地区の安全を確保するための地すべり対策及び貯水時の監視体制などについ て検討するのが目的。 ※写真上:大滝ダム貯水池斜面について対策を検討する委員 ※写真下:記者会見で検討結果を説明する田村委員長
第1回委員会では、規約の承認を経て委員長に田村武京都大学大学院教授を選出。近畿整備局河川部の松山宣 行河川情報管理官が、同再評価委での議論や経緯を説明した後、「大滝地区、迫地区でもより安全度を高めた い。委員会の意見を伺いながら対策を講じ、大滝ダムの1日も早い本格的な運用をめざしたい」と語った。続 いて田村委員長も「大滝ダムは安全が最優先される。最もよい方法を検討したい」と述べ会議に入り、詳細条 件や計画安全率などについて確認した。 詳細条件では、迫地区は現在ボーリング中であり、今月末に出る正確な値に基づいて設定するとしている。大 滝地区の前面すべりに対する安定解析のための想定ブロックは、すべり面下の「河床堆積物の分布範囲」の下 面をブロック下面、安定解析検討断面は、尾根状地形及び地すべりブロック形状の突出部に設定することを確 認した。計画安全率については、2地区とも1.15にする。1.0が平常であり、それよりも高く目標を設定し た。 対策工法については再評価委では、大滝地区の前面すべりは押え盛土工法を主工法とし、補助工法として抑止 杭工法を採用すること。迫地区の下部すべりに対しては、押え盛土工法を主工法とし、補助工法として抑止工 および排土工を検討するようそれぞれ提案。今回の対策委でも盛土や杭などを採用し、抑制工と抑止工、補助 工法の必要性を挙げている。 大滝ダムは重力式コンクリートダムで、堤高100m、堤頂長315m、総貯水容量8,400万立方m。2003年2月に ダム本体の工事が完了し、同年3月から試験湛水を開始。この時、白屋地区で地すべりが発生した。今後の方 針について近畿整備局は「検討委の議論を踏まえて、速やかに対応していきたい」と語っている。 なお、同委員会のメンバーは次のとおり。 ▽田村武京都大学大学院教授(委員長) ▽千木良雅弘京都大学防災研究所教授 ▽角哲也京都大学大学院助教授 ▽吉松弘行社日本地すべり学会理事 ▽平野勇独土木研究所地質監 ▽佐々木靖人独土木研究所材料地盤研究グループ上席研究員 ▽藤澤和範独土木研究所土砂管理研究グループ上席研究員 ▽安田成夫国土技術政策総合研究所水資源研究室長 田村委員長の話 いまは安定な状態で、地すべりが起こるとは考えられない。しかし、このまま放置しておれば問題がある。ダ ムに水を溜めて湛水時に水を下ろすことを繰り返していると危険。安定計算は最も危険が大きいことを想定 し、出てきた結果が最も安全であるという計算をした。