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近未来の社会資本整備「自律移動支援プロジェクト」・・・・ 足立部長
学生には、大きな土木の夢を与えよう ・・・大西教授

対談

   足立部長 建設分野全体が大変厳しい環境下にあって、土木系に進もうという学生が少なくなってきているのは承知しています。しかし、日本の国土を支えているのは土木です。これがないがしろにされていくと、日本の発展も繁栄も望めません。今後、優秀な技術者をどうやって確保していくか、先生がおっしゃった待遇面も含めて非常に重要な課題だと思っています。また従来型の土木の姿だけではなく、最新の先端技術を活用した新しい土木が皆さんに理解されれば、また、土木に向けられる目も違ってくるものと思います。
   大西教授 学生に聞いたのですが、「いまの土木には夢がありません。自動車や商社などのトップは、業界が将来どうあるべきかなど新聞の一般紙でよく語っています。ところが建設会社のトップの話は、業界紙は別にして、一般紙にはほとんど掲載されません。ビジネス雑誌にも取り上げられることが稀です。建設業界の今後の方向性が、全然打ち出されていません」と。私もこれを聞いて、学生が建設業をこういう目で見ているのかとハッと思いましたね。確かに一昔前は、多くのダム建設や本四架橋、高速道路の建設などが目白押しで、自分が将来どんな仕事に夢を託すかを語ることができました。〝地図に残る仕事〟が流行語となったこともありました。いまは、夢といわれるようなプロジェクトはほとんどなくなっています。それでは次は何に求めるのか、いま足踏み状態になっているように思います。学生が夢見ることの出来る〝土木〟が、いまでも存在することを伝える努力が必要とされています。

自律移動支援プロジェクト実験様子
自律移動支援プロジェクト実験様子
(写真提供:兵庫国道事務所)

   足立部長 先ほども申しましたが、情報通信技術やIT技術など、いろんな技術を融合させた新しい土木の姿というものが、次の時代の夢を描かせてくれるプロジェクトじゃないのかな、そんなふうに思っております。具体的な例として、現在、神戸で自律移動支援プロジェクトに取り組んでいます。これも産・学・官連携で進めているもので、ICタグを街中に張り付け、場所情報や移動経路、交通手段、目的地などの情報を、ユビキタスコミュニケーター(いずれは携帯端末への導入も可能)を使うことによって、いつでも、どこでも得られるというものです。これによって身体障害者の皆さんには移動経路や障害物の位置を教えてくれる、外国人に対してもいろいろな情報を母国語で教えてくれる、観光情報などもそこから得られるというシステムで、神戸の街づくりを通じて展開しています。こうした取り組みが近未来型の社会資本整備ではいかと思っています。いずれはこのシステムと協調して橋などにもITタグを入れてその構造物の特性が分かる、そこからいろんな情報が得られるという社会になるのではと期待しております。
   大西教授 その場合、土木の役割はどこにありますか。
   足立教授 舗装や点字パネルの中にICタグを入れる技術が難しく、これは土木でないと出来ません。また、ICタグ配置についてはシステムの開発者には分からないわけで、道路管理者らがコーディネーターの役割を担っています。
   大西教授 要するに要因は二つあり、一つは新システムを考える視点と、もう一つはこの場合、舗装の中にどう埋め込み力学的にどう安定させるか、個々の技術を安定化し機能させていかなければいけない視点がありますね。官としては、ミクロのところから非常に幅広いマクロな鳥瞰図的なところまで見なければいけないという、指揮者としての役割が非常に大きいと思います。
   足立部長 おっしゃるようにゼネラルなところからスペシャルなところまで両方カバーしているわけです。
   大西教授 こうした良いプロジェクトがあることが、将来の人材である学生たちには全然伝わっていないことは残念ですね。このような先端的な舗装の仕事にも夢がありますが、将来はもっとグローバルな大きな視点に立って社会に貢献する仕事があることを、学生にいかに伝えていくかが重要だと思います。

土木が果たす役割

   足立部長 先生もお話されましたが、多方面にわたって土木の分野がコーディネーターの役割を果たすことを期待されているように感じています。都市づくり、また地域づくりといった部分に関しては、本来、土木の分野の人たちがグランドデザインを描かなければいけないと思います。大学においても、ぜひ土木の分野でスペシャルな面とゼネラルな面を兼ね備えた人材の育成をお願いしたいと思います。
   大西教授 大学でも幅広い視点に立って学生を教育するよう努めていますが、いまだにハードな面が強調されており、ソフト面が弱いのが現状です。お話しに出てきましたゼネラルで幅広いシステムを考える人は多くないようですね。学生達はソフト的な研究や仕事に魅力を感じているようです。そして、いま公共投資の減少や建設業界が縮小している中で、おっしゃるような人材の育成にはどうすればいいのか、大学も模索しているのが実情です。ハード的な基礎教育が必要という考え方は、そう簡単に変わりそうにないですね。大学が変革するためには、やはり外からのニーズや情報・社会の要請など、強いインパクトが必要だと思っています。そういった意味で、いま、貴重なお話をお聞きしました。
   足立部長 これまでは「全体のコーディネーターは官が行うので、産・学からは技術を提供してほしい」という傾向がありました。この点に関しては、私たちも反省しなければいけないと思っています。
   大西教授 官も外からよい提案が出てくることを大いに歓迎するのであれば、コンサルタントは非常に重要になりますね。外国のコンサルタントと比べれば、日本では立場が弱い。むしろゼネコンが、コンサル業務を含んでおり、世界的には特異な存在として見られています。欧米には日本のようなゼネコンはありませんから。アメリカのベクテルは、日本の商社とゼネコンなどを兼ね備えた巨大なコンサルタント会社として君臨しています。今後は日本でも大きな変化が起こるのでは…。
   足立部長 最近、日本のスーパーゼネコは、商社的な性格が強くなってきたように思います。