
京都市の東部方面と中心部を東西に結ぶ?太い絆?が、地域経済の活性化や 市民生活の向上をもたらす―。阪神高速道路(株)が事業主体となって建設 を進めていた阪神高速8号京都線稲荷山トンネル(新十条通)が1日に開通 した。京都市山科区と市の中心部との間に横たわる「東山連峰・稲荷山」を 東西に貫く路線で、延長は山科出入口(京都市山科区西野山桜ノ馬場町)か ら鴨川東出入口(京都市伏見区深草中川原町)までの2.7?。京都東部方面か ら京都中心部へのアクセスに要する時間が大幅に短縮されるとともに、国道 一号等の渋滞が緩和されることにより二酸化炭素や窒素酸化物の総排出量が 削減され、京都市内の環境改善に寄与する。
一方、京都市域の一体化を促進させる?太い絆?などの施工を担当した精鋭各社では、高度な技術力を駆使 するとともに環境保全に留意しながら安全第一に工事を推進し、高品質に完成させた。 所要時間の短縮、環境改善などに効果 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 山紫水明の自然の中に歴史と伝統を継承しつつ、1200年余に亘って発展を遂げてきた古都・京都。しかし、 今後さらなる創造を続けていくためには、中枢都市にふさわしい新しい魅力と活力溢れる都市機能の整備が 不可欠となる。なかでも、京都市を取り巻く広域幹線道路と市内各地域との連絡を円滑にし、通過交通量を 減少させることが重要な課題で、安全・快適で環境負荷の少ない総合的な交通網体系の確立が強く求められ ている。 一方、京都市では、2001年1月に「保全・再生・創造」をまちづくりの指針とする「京都市基本計画」を策 定。「安心・快適な市民生活」と「多彩で個性的な機能」を合わせ持つ魅力あるまちづくりを目指していく こととし、都市活動を支える交通基盤整備の一環として「京都高速道路」が計画された。 京都市内の慢性的な交通渋滞を解消するとともに、京阪神都市圏の広域的・有機的な連携を深めることを目 的として策定された京都高速道路計画は、新十条通、油小路線、久世橋線、堀川線、西大路線の五路線(合 計20.9?)からなるもので、このうち、新十条通と油小路線の2路線が阪神高速道路?によって事業化され ていたが、油小路線(延長7.3?)については今年の1月19日に上鳥羽出入口から第2京阪道路接続部までの 区間(5.5?)が阪神高速8号京都線として供用を開始した。 これに引き続いて1日に開通した阪神高速8号京都線稲荷山トンネル(新十条通)は、京都市山科区と伏見 区との間に連なる東山連峰の南端に位置する稲荷山をトンネルで横断し、両区間(山科出入口から鴨川東出 入口)を結ぶ延長2.7?(トンネル区間2.5?、土工区間0.2?)、往復四車線の自動車専用道路。道路規格は 第2種第2級、設計速度は毎時60?となっている。 住宅地として発展してきた山科区と京都市中心部とを 結ぶ幹線道路は、五条通(国道1号)と三条通(府道四ノ宮四ツ塚線)の2路線しかないため交通混雑が頻 繁に発生していた。
交通渋滞の緩和をはじめとする周辺地域の交通環境の向上や連携強化などを目的として計画され、1995年に 事業着手した新十条通が、阪神高速8号京都線稲荷山トンネルとして開通したことにより、京都東部方面か ら京都中心部へのアクセスに要する時間が大幅に短縮。具体的には、山科区役所からJR京都駅までの所要 時間は、従来の約34分から約14分に短縮され、利用距離についても約8.3?が約6.9?となる。また、国道一 号等の渋滞緩和により、二酸化炭素や窒素酸化物、浮遊粒子状物質の総排出量が削減され、京都市内の環境 改善にも寄与する。 このように、様々な開通効果をもたらす阪神高速8号京都線稲荷山トンネル。京都東部方面と都心部を結ぶ ?太い絆?として幅広く利用され、親しまれていく。 東山連峰を貫く4つのトンネル技術 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 全長約2.7?のうち、約2.5?が南北につらなる東山連峰を貫くトンネル構造となっている阪神高速8号京都 線稲荷山トンネル。トンネル区間は、地表から浅い「洪積層」、粘土や砂などからなる「大阪層群」、固い 岩盤を持つ「丹波層群」などを通っている。これらの多様な地質条件に対応するため、「開削工法」、「シ ールド工法」、「NATM工法」、「プレキャストアーチカルバート工法」の四つのトンネル工法を採用し て施工した工事は、1997年7月29日に催された起工式を契機として軌道に乗り、同年9月から鴨川東出入口 側の開削トンネル区間(約0.2?)に着手。地表を大きな溝を掘るように切り開いた箇所にボックスカルバー トを構築し、その後に土砂で埋め戻したコンクリート製の構造物は、東行線・西行線の2本のトンネルを束 ねて一体化した形状になっており、2002年1月に完成した。 丹波層群のように強固で地盤の安定した地層に適しているNATM工法を採用して推進した稲荷山側のトン ネル区間工事(約1.5?)は、1998年12月の坑口付けを経て本格化。市域のほぼ4割を供給する導水トンネル (日流量1万4,000トン)との交差部(離隔28m)を1999年秋に通過してから機械掘削による上半先進NAT Mでの2方施工へと切り替え、2001年3月に掘削が完了した。 地上部に住宅が密集するとともに、琵琶湖疏水や鉄道が横断する都市部の工事となった伏見側のトンネル工 区では、これらの厳しい条件をクリアするため、地盤・地下水への影響が極めて少ないばかりでなく、騒 音・振動も少ないシールド工法を採用。使用したマシンは、直径10・82mの岩盤対応型泥水式のもので、安 全で周辺環境に配慮した工事を実現した。 2006年1月23日に西行きトンネルシールド区間の掘進を伏見側から開始し、同年12月26日に同区間が貫通し たたこの工事における最大の特徴は、かつてない大規模なトンネルが交差する「シールドマシンの転回部」 を設けたことで、山科側から掘り進んで設けた転回部でシールドマシンは180度方向を変えて2007年5月29日 から東行きトンネルシールド区間の掘進に着手した。 西行きトンネルにおける施工実績やデータを踏まえて伏見側に向かって掘り進んだ東行きトンネルは、2007 年12月3日に貫通。西行きトンネルの掘進開始以来約1年10カ月でシールド区間は無事に全区間が貫通する に至った。プレキャストアーチカルバート工法が採用されたのは、一度切り開いて山岳トンネル工事ヤード として利用した山科側のトンネル入口。工事が終了した後、工場であらかじめ製作されたアーチ状の部材 (プレキャストアーチカルバート)でトンネルを組み立て、土砂で埋め戻した。なお、3ピース部材の接合 部は、簡易なヒンジ構造ながら高い耐震性を確保している。
また、4つのトンネル技術が息づく延長2・5?の稲荷山トンネルの伏見側には地元の酒蔵をイメージした 十条換気所、山科側には風致地区に配慮した山科換気所を設置しており、地域のランドマークとして親しま れていく。