

荒谷氏「TRAPEZOID」玉置氏「トウフ」 (社)日本建築家協会近畿支部(吉羽逸郎支部長)の「第3回関西建築家新 人賞」の受賞者に、荒谷省午氏と玉置順氏が決定した。荒谷氏の作品は、 「TRAPEZOID」、玉置氏は「トウフ」で、いずれも専用住宅での受 賞となった。今回は16名の応募があった。審査委員長の木村博昭・京都工芸 繊維大学大学院教授は、「時間を超え、マーケットに支配されず、かつ消費 せずに残るもの」と、時間が経過しても耐えうる建築と、両作品を評価して いる。 荒谷氏の作品は、西宮市の自邸で、RC造地下1階地上3階建て、延床面積 194.32?の規模。審査では、既製品に頼らず材料、建具、家具、小物まで全 てに、「手の痕跡を感じさせるもの作りの手法に徹し、独自の世界観を完成 させている」と講評され、自身も、「物に対する感覚、家具から小物まで細 かく係わりたかった」とし、それに対する評価を「嬉しく思う」とする。設 計にあたっては、敷地条件から全体のボリュームを考え、ボリュームから空 間構成を考えたとし、「素材感の貧しいものは避けながら、全体のバランス を保つことを心掛けた」。
玉置氏の「トウフ」は、京都市に住む高齢者用の住宅で、S造平家、延床面積111.84?で、10年前に玉置 氏が初めて手掛けた作品。クライアントの意向に沿い、廊下を介さず各部屋への移動を実現。全体的には、 「塊から刳り貫き空間を導き出す古典的手法」(木村委員長)で、自身は「壁の分厚さの中に部屋がある空 間のリアリティー」とし、講評では、「高齢者住宅として機能せずとも、強い空間のメッセージ性が伺え る」とされた。 審査は、木村委員長のほか、写真家の宮本隆司氏、建築家の山口隆氏の3氏が担当。審査にあたり木村委員 長は、「職能団体であるJIAとしての社会性を踏まえ、作家性(作品)を重視した」とし、変化する時代 にあって、作品が消費されない存在で、時代を超え、かすかな光を放つものを有するかーが選考の視点と し、現地審査を踏まえた上、3氏が一致して受賞作を決定した。 建築家と社会性について荒谷氏は、「建築に対する我々世代のアプローチは、儀礼的なものに変わりつつあ るのでは」とし、玉置氏は、「作家性ばかりで社会性からの遊離を危惧する」と、それぞれの意見を述べ る。 新人賞について吉羽支部長は、前回より応募者も増え、力量を持った若手建築家が出てきたことに「JIA の人材をアピールでき、若手にとっても意味のある賞となってきた」とし、木村委員長も、前回よりレベル アップし、「賞に対する意識が高くなってきたと考えられる」との見方を示す。また、昨年の関西建築家大 賞では、アトリエ派の建築家でなく、組織派の建築家が受賞したことを例に挙げ、「新人賞も今回までアト リエ派が受賞しているが、組織派の受賞者も出てきてほしい」(吉羽支部長)と、今後の行方にも期待を寄 せた。 荒谷省午 (あらたに・しょうご)徳島大学工学部建築学科卒。無有建築工房勤務を経て、2000年荒谷省午建築研究所 設立。大阪市立大学生活科学部非常勤講師。大阪府出身。36歳。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 玉置順 (たまき・じゅん)近畿大学大学院工学建築科建築学専攻修了。鈴木了二建築計画事務所、根岸一之建築設 計事務所を経て、1992年1級建築士事務所玉置アトリエ開設。43歳。