河内厚郎氏らの講演と見学会 神戸の観光資源の1つである建築物等を通じて、神戸の歴史や文化、物語に 関する講演会と見学会の「神戸建築物語」の第5回が22日、‘神戸文学と建 築‘をテーマに神戸市中央区のファミリアホールで開催され、市民ら約200人 が参加、河内厚郎・夙川学院短期大学教授と足立裕司・神戸大学教授による 講演会と元町・海岸通などの建築物見学会が行われた。 河内氏は‘神戸の建築・まちなみと文学‘をテーマに、谷崎潤一郎はじめ村 上春樹まで、神戸を舞台にした小説や映画の背景などを紹介した。谷崎に関 しては、代表作の一つともいわれる「陰翳礼讃」が神戸在住時に発表され、 その執筆の場となった家は、谷崎自身が設計した和風と中華風、西洋風が混 ざり合ったもので、「小説の文体にも現れている」と指摘した。また、学生 時代は三宮や北野町を通学路としていた稲垣足穂や神戸市出身の宮本輝の小 説にも神戸を舞台とした作品があり、映画では現代の旧居留地を舞台とした 平中悠一の「シーズ・レイン」、村上春樹原作で北野町でロケを行った「風 の歌を聞け」などを紹介。
さらに、ロシア革命時代に亡命してきた世界的に名高いロシア人の音楽家の多くが移住し、関西のクラッシ ック界に影響を与えた深江文化村、世界初のIT文学館「ひょうご文学館」などを紹介しながら、これら芸 術や文化が生まれる背景には「神戸には外に向かってオンリーワンとなるものが戦前からたくさんあったか ら」とし、今後もそれらを後世に伝えていきたいとした。 続いて、足立教授が、‘神戸港の発展と神戸市街地の形成ー都市空間と建築の変遷ー’をテーマに講演。足 立教授は「活気はあるが美しくない」とされる日本のまちについて、「空間的不連続と時の不連続」をキー ワードに神戸の成り立ちを説明した。足立教授は、居留地の誕生について「当時の中心であった兵庫津から 隔離する意味で選定され、その後、鉄道の開通により居留地と駅を結ぶ交通路として栄町が整備され、そこ にも外国人が居留し、まちなみが形成されていった」と解説した。 当時に家屋については、洋風建築を学んだ日本人大工らが、日本人向けの西洋家屋の建築を手掛け、1900年 初めから40年頃にかけて、「日本人が学び、その感性でまちなみをつくり始めた」とし、特に顕著な例とし て洋風を採り入れたモダン寺などを上げた。 また、須磨や塩屋の洋館、旧乾邸など、神戸はじめ阪神間には戦争後も残った住宅の文化を紹介。現在の問 題として「湾外沿いの高速道路が都市空間と景観を断絶している」と指摘し、神戸市の都市政策3原則「守 る、育む、造る」を遵守しながら、「建築への理解を深め、建築と歴史、地域との関係をどう守っていくか を考える必要がある」と今後の取り組みへの課題を示した。 講演会終了後は、ファミリアホールはじめ海岸ビルデングや栄町、元町、海岸通に残る建築物の見学会が行 われた。講演会場となったファミリアホールは、明治33年(1900年)に三菱銀行神戸支店として建設され た、ルネッサンス様式の建物で曾禰達蔵が設計した。