建築行政を支える技術者集団として技術の継承と向上が課題 大阪府内の公共施設はじめ、府営住宅などの整備を進める大阪府住宅まちづくり部公 共建築室。府有施設の計画から設計、監理、改修などの建設から維持管理までを担 い、さらにはESCO事業まで幅広い業務を手掛ける技術者集団として、大阪府の建 築行政を支えている。今年4月に就任した岨良政室長は、「技術の継承が課題」とし ながらも、技術集団としてのメリットを活かした事業展開に意欲を見せる。その岨室 長に、府営住宅の建替や耐震改修事業など、今年度事業への取り組みなどを聞いてみ た。(渡辺真也)
〜ESCOなど環境への取り組みも〜 ――初めに就任にあたっての抱負から。 「公共建築室は技術集団としての歴史と実績がありますが、事業量の減少や組織の縮小などで、技術の継承 が課題となっております。そういった意味からも若手職員の技術力の向上と、各課が互いに連携して良い仕 事が出来るような環境づくりを心掛けていきたいと思っております」 技術の向上については、内部設計や内部コンペを通して腕を磨くとともに、職員の資格取得に関しても、取 得への意欲を高めるような支援を講じて、人材育成を目指したいとする。 「かつては独立開業した職員もおりましたが、能力的にそこまでいかなくとも、基本的なベースとなるもの は知っておく必要はあるでしょうね」 「また、今年6月には改正建築基準法が施行され、計画通知が確認申請と同様に有料となり、いわゆるピュ アチェックが行われるとともにそれら確認審査や検査がどうなっているのかを、公共建築室の技術者も理解 しておくことも重要だと思います」 ――今年度の事業は。 「府営住宅の建替については、例年以上に増やさなければ目標通りの計画達成に届きませんから鋭意進めて いきます。また昨年から始まった耐震10か年計画に示された府有建築物の耐震化率90%以上を達成するた め、関係部局に協力いただいて耐震改修に取り組んでいきます」 府営住宅の建替事業については、今年策定された「府営住宅ストック総合活用計画(2007年1月)」によ り、平成27年度までに2万戸を建替えるとともに、1万5,200戸の耐震改修を実施。PFI事業では、府立 精神医療センター再編整備事業に続く候補事業の選定とともに、「技術集団としてのメリットを活かしたP FIに取り組んでいきたい」と意欲を見せる。 ――ESCO事業も、公共建築室の大きな柱のひとつです。 「ESCO事業に関しましては実績も積み上げており、今後は中小規模施設と府内市町村での展開、民間施 設への普及など、環境を軸に幅広い分野で推進すべきと思っております」 環境への配慮については、CASBEE(建築物総合環境性能評価システム)により、公共建築の環境に対 する負荷低減を図り、いかに環境保全に寄与するかを念頭においた設計を実施したいとし、その意識を職員 にも浸透させることが必要だとする。 ――低入札の解消法として総合評価方式への期待が高まっております。 「総合評価方式につきましても、何が問題であり、どう対応すればいいのかをよく考える必要があります。 土木と違って建築の場合、施設によって技術提案の内容が異なりますから、その辺をよく検討した上で、今 年度は試行したいとは考えております」 ――ところで、室長は建築畑が永いわけですが、室長の目からご覧になった、現在の業界はいかがです。 「一連の事件を見ても、業界の悪弊がまだまだ残っているように見受けられますし、業界自身も、それから の脱却を目指していろいろとご苦労なさっていることも見て取れます。私としてはコンプライアンスの遵守 を徹底していただきたいと思っています」 岨室長は、「業界が悪者とは見ていない」とし、協力するところは協力し、毅然とするべきところは毅然と するーと、発注者と業界側がお互いに共通認識に立っていれば、「いい仕事ができるはず」と、節度を保っ た付き合いが必要だと語る。 「特に大阪建設業協会などの業界団体とは連携を深め、業界側の課題や行政上の課題についての解決に協力 していただきたいですね」 入庁以来、印象に残る仕事として、府庁舎建替に係る周辺整備コンペと関西国際空港会社への出向を上げ る。周辺整備コンペでは、上司や先輩からこき使われましたと笑いながら「苦しかったけれど楽しかった」 と振り返る。関空では、一期島の護岸が出来つつある時期で、空港駅や駐車場、消防署などの整備に関わ り、「開港に向けて発注に追われていましたね」とし、いずれの仕事でも「日付が変わっての帰宅はしょっ ちゅうでした」。専門家として、技術集団としての公共建築室の役割に期待したい。 岨良政 (そわ・よしのり)1972年3月関西大学工学部卒、同年4月大阪府入庁、1983年5月建築部建築監理課主査 (摂津市派遣)、1986年4月総務部用度課主査、1989年4月総務部庁舎周辺整備室主査、1990年4月建築部 建築指導課審査第三係長、1991年5月企業局空港推進課主幹(関西国際空港?派遣)、1993年4月企画調整 部空港対策室主幹(同)、1994年4月建築部建築指導課主幹、1998年4月企業局宅地室参事、2000年4月建 築都市部公共建築室参事、2001年4月同住宅建築課長、2003年4月同計画課長、2004年4月建築都市部建築指 導室建築企画課長、2005年4月同建築指導室長を経て、今年4月から現職に。58歳。