実施件数も増加傾向 全国で250件突破 公共施設の建設や維持管理・運営などについて、民間の資金、経営能力、技術 を積極的に活用して事業を実施する「PFI事業」(プライベート・ファイナ ンス・イニシアティブ)が、日本でも次第に浸透してきた。内閣府PFI推進 室調べでは、基本方針策定以降に実施方針が策定・公表された事業数は、平成 18年11月10日現在、国33件、地方公共団体189件、特殊法人その他 の公共法人29件、計251件を数え、着実に右肩上がりで増加傾向を示して いる。 近畿圏での件数は大阪府内18、兵庫県内12件、京都府内9件、滋賀県内3 件の計42件(表参照)。昨年11月29日に大阪で開かれた国土交通省の平 成18年度PFIセミナーでは、会場をほぼ埋め尽くす自治体や民間事業者ら の関係者が出席し、講師のプレゼンテーションに熱心に耳を傾けた。いまPF Iに熱い視線が注がれている。
【写真上】日本政策投資銀行関西支店の池田良直企画調査課課長
【写真下】PFIによる全国初の近江八幡市民病院(写真はSS大阪提供)
これまでPFIを実施するために、平成11年7月23日に「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の 促進に関する法律(PFI法)」が制定されて以来、契約やリスク分担に関するガイドラインの策定、国民に 対する低廉かつ良好なサービスの提供確保、民間事業者の選定に当たっての評価方法の明確化など、法律の一 部改正が行われてきた。 こうした背景を踏まえて、さらなるPFIの促進に向けて、内閣府民間資金等事業推進室(PFI推進室)か らの「我が国のPFIの現状・課題及び内閣府の取組状況」とあわせ、PFIに詳しい日本政策投資銀行関西 支店の池田良直企画調査課課長に、PFI実施に当たって気づいたことなど語ってもらった。 ◇◇◇◆ 内閣府民間資金等活用事業推進室 ◆◇◇◇
〜〜〜〜〜 「我が国のPFIの現 状・課題及び内閣府の 取組状況」 〜〜〜〜〜 円滑な運用を期待 我が国のPFIは、平成11年のPFI法施行から7年余を経て、現在では250件を超える事業が進めら れており、このうち半数以上が既に施設の整備が完了し運営段階に移行しているところです。また、事業規模 (公共負担額が決定したもの)においても平成11年度からの累積で約1.8 兆円にのぼっており、近年では 数1000億円規模の事業も登場するなど、件数のみならず事業規模においても着実に進展してきております。 こうした中、PFI事業の進展に伴って、新たな課題も発生しており、一昨年のPFI法改正においては、民 間事業者との対話の在り方、段階的な事業者選定の在り方、特定選定の手続きにおける透明性及び公平性の確 保等について検討すべきことが明記されました。 これを踏まえ、内閣府としては、現在、民間事業者の選定の在り方等についての検討を進めており、この一環 として昨年11月には、発注者と民間事業者との意思疎通をより円滑に行うための具体的方法等を内容とする PFI関係省庁連絡会議幹事会申合わせを公表したところです。 本申合わせでは、2004年のEU指令において、競争的対話方式が導入された状況等を参考として、病院や 刑務所のような運営の比重の高い事業等について、 ?事業者選定時における段階的審査おいて絶対評価基準により最低3社程度に絞込みが可能であること ?必要に応じ発注者が応募者ごとに対面・口頭による対話を行うことが可能であること ----等を示しており、今後、発注者と民間事業者間で円滑なコミュニケーションがなされることによ り、より適切なPFI事業が実施されるものと期待されるものです。 また、大規模プロジェクトの増加に伴って優先・劣後借入等の導入、シンジケートローン形態の採用等資金調 達方法が多様化してるほか、仙台市「スポパーク松森」で起きた屋内プールの天井落下事故に伴う安全性確保 の課題、福岡市「タラソ福岡」の経営破綻に伴うモニタリングの課題等、事業運営段階における新たな課題も 出現しており、こうした課題に対しても具体的な対応策を検討する必要があります。 このようなことから、来年度予算では、内閣府において要求したPFI事業の評価に関する調査・分析に必 要な経費が新たに政府案として認められました。 また、昨年7月には日本と韓国の両国政府による「弟一回日韓定期PFI推進交流会議」を東京で開催し、 情報・意見交換を通じた両国のPFI事業の一層の促進にも努めているところです。 □□□ 近畿圏のPFI事業 □□□ (基本方針策定以降に実施方針が策定・公表の事業 内閣府PFI推進室、平成18年11月10日現在) 事業名称 管理者 実施方針/公表日 ○ 大阪府内 江坂駅南立体駐車場整備事業 大阪府 H13. 1.30 八尾市立病院維持管理・運営事業
八尾市 H14. 9.10 大阪大学(石橋)学生交流棟整備事業
大阪大学 H14.10. 2 公務員宿舎枚方住宅(仮称)整備事業
財務省 H15. 3.14 (仮称)泉大津市立戎小学校整備事業
泉大津市 H15. 9.26 (仮称)東大阪市消防局・中消防署庁舎整備事業 東大阪市 H16. 1.23 大阪府警察寝屋川待機宿舎建替整備等事業
大阪府 H16. 6. 1 大阪大学(吹田1)研究棟改修(工学部)施設整備等事業 大阪大学 H16. 6. 7 水と緑の健康都市第1期整備等事業 大阪府 H16. 7. 9 堺市・資源循環型廃棄物処理施設整備運営事業
堺市 H16.12.14 津守下水処理場消化ガス発電設備整備事業
大阪市 H17. 2.28 富田林市浄化槽整備推進事業 富田林市 H17. 7.15 (仮称)水と緑の健康都市小中一貫校整備等事業 大阪府・箕面市 H17. 8.24 航空保安大学校本校移転整備等事業 国土交通省 H17. 8.26 (仮称)山田駅前公共公益施設整備事業 吹田市 H17.10.17 大阪府警察金岡単身寮整備等事業 大阪府 H17.11.30 大阪府立消防学校再整備等事業 大阪府 H18. 1.31 大阪府精神医療センター再編整備事業 大阪府立病院機構 H18.10.10 ○ 兵庫県内 神戸市摩耶ロッジ整備等事業 神戸市 H12. 8. 2 マリンピア神戸フィッシャリーナ施設整備等事業 神戸市 H13. 2.28 とがやま温泉施設整備事業 養父市(旧八鹿町) H13. 7.26 (仮称)加古川市立総合体育館整備PFI事業 加古川市 H13.10. 4 神戸大学医学部附属病院立体駐車場施設整備等事業 神戸大学 H14.12. 2 尼崎の森中央緑地スポーツ健康増進施設整備事業 兵庫県 H15. 1.20 神戸市中央卸売市場本場再整備事業 神戸市 H16. 2. 6 (仮称)「道の駅ようか」整備事業 養父市 H17. 1.14 神戸大学(六甲台2)総合研究棟(農学系)改修施設整備等事業 神戸大学 H17. 4.28 (仮称)姫路市新美化センター整備運営事業 姫路市 H17.12.14 神戸市立中央市民病院整備運営事業 神戸市 H18. 8.11 播磨社会復帰促進センター等整備事業 法務省 H18. 9. 6 ○ 京都府内 総合地球環境学研究所施設整備事業 人間文化研究機構 H14. 9.20 京都大学(桂)総合研究棟V、(桂)福利・保健管理棟施設の整備事業 京都大學 H14. 9.30 京都大学(南部)総合研究棟の整備事業 京都大学 H14. 9.30 京都御池中学校・複合施設整備等事業 京都市 H15. 5.15 京都大学(北部)総合研究棟改修(農学部総合館)施設整備等事業京都大学 H16. 4. 9 PFIによる京都府府営住宅常団地整備等事業 京都府 H16. 7.28 京都市立小学校冷房化等事業 京都市
H17. 5.20 京都市伏見区総合庁舎整備等事業 京都市 H17.12.15 京都市立音楽高等学校移転整備事業 京都市 H18. 7. 3 ○ 滋賀県内 近江八幡市民病院整備運営事業 近江八幡市 H13. 5. 7 (仮称)滋賀21会館整備PFI事業 滋賀県 H13. 7.17 野洲町立野洲小学校及び野洲幼稚園整備並びに維持管理事業 野洲市(旧野洲町)H14. 1.15 ◇◇◇◆ 「PFIの実施に当たって思うこと」 ◆◇◇◇
〜〜〜〜〜 池田良直・日本政策 投資銀行関西支店企画 調査課課長に聞く 〜〜〜〜〜 自治体の主眼を明確に 価格面とサービス面の 最適なバランスを
自治体らが実施するPFI事業に応募する参加業者が増えている。ここでは、PFIに詳しい日本政策投資 銀行関西支店の池田良直企画調査課課長に、自治体や事業者の双方からPFI実施に当たっての留意点などに ついて分析してもらった。 ◇まずはじめにPFIの目的やメリットをお聞きします。
池田課長 : PFIは国や自治体が公共事業を実施するために、「民間活力を使ってコスト面を抑えるこ と」、それと両立する形で「よりよいサービスを提供すること」、この2つが大きな前提になっています。P FIを実施するのに当たって、公共サイドは民間資金を活用して必要不可欠な社会資本を整備することが可能 になること、将来、債務(施設費分)の残存は公共サイドにとって民間へのリスク移転を経済的に担保できる こと、長期事業継続の安定性が向上することなど、また民間事業者は多種多様なリスクを特定の者が全面的に 抱える負担を回避できることなど、金融サイドとしては事業リスクのアレンジメントによって事業に即応した 合理的な出融資条件が設定できることなど、それぞれのメリットがあります。民間へのリスク移転が重要要素 で、民間のノウハウを生かした創意工夫による効率性の向上が民間事業者の報酬の源泉になっています。
◇PFIに対する自治体や事業者の認識については、どのように感じておられますか。
池田課長 : 自治体の中には、最初に事業資金を投入しなくてもいいために、「民間事業者がお金を出して くれる」、そんなイメージをお持ちのところが一部あるように見受けられます。そこまでいかなくとも、単な る支払いの繰り延べと考えておられるケースはあるようです。一方、受けられる事業者からすれば、「自治体 がどこに主眼を置いてPFIを実施されるのか」、これが一番つかみにくいのではと思います。事業費に重点 を置いておられるのか、あるいは金額が高くても良いサービスを求めておられるのか、そのあたりのバランス 感が見えにくいのが実情です。
◇PFIの審査は難しいですね。
池田課長 : 審査の手続きとしては、公表された審査基準に基づいて委員できちんと審査し、価格面、施設 面やサービス面などの合算で点数が高いベストの案件が選ばれます。しかし、その仕組みのところが本当に正 しいのかどうか、議論の分かれるところです。例えば金額が予定価格を下回っていればOKということで横並 びで審査するケースですと、金額にかなりの差が出てきます。この場合、施設・サービス・内容重視と考えら れるわけですが、果たしてそれに相応しい案件なのか、コスト削減を軽んじていないかとの議論が出てくる可 能性があります。 ◇工事で予定価格を上回るとどうなりますか。 池田課長 ; 事業費増額リスクは、建設事業者が負うことになります。その部分のリスクをどの程度みて入 札されるのか、そのリスクをいかに吸収するのかが問われるところです。
◇いま国は「安ければいい」という発想を排除し、一般競争入札で「技術力に優れた質の高い公共建築物」 を求めています。 池田課長 : PFIでは、そこが見えにくいケースが多いように思います。実際、サービス面がよければ価 格が少々高くてもいいという方向で審査されるケースもありますが、後になってコストをもっと下げられたの ではないかという議論が出てくる可能性もあります。 ◇審査をされる委員会のメンバーには、どのような方が入っておられますか。 池田課長 : 通常ですと、審査委員会のトップにPFIに詳しい大学の先生、あとは事業性の面でチェック する金融機関や公認会計士の専門家、施設やサービス事業に精通した方々で構成されています。私どもは政府 系金融機関として、公平・中立ということで評価していただいているのかなと考えております。 ◇銀行ですと、やはり価格面を重視されるわけでしょう。 池田課長 : 融資する側から申し上げますと、金額にこだわるというよりも、事業が成立するような計画に なっているのか、考えられるリスクにどのように対応しようとしているのか、といったところをチェックしま す。要はプロジェクトファイナンスという手法を用いますので、各業者でどうリスク分担できるのか、その仕 組みをどう作るのかを重視します。大事なことは施設が完成した後の維持管理。継続して20年、30年と管 理していかなければなりませんから、プロジェクト会社(特別目的会社)はどう継続できる体制になっている のか、あるいは何らかの事態が起きた場合、そこにどう対処するのか、これも契約上の1つの大きなポイント になります。現実的なリスク回避策をどう定めていくかでしょう。 ◇プロジェクト会社の仕組みやリスク分担について詳しく教えて下さい。 池田課長 : プロジェクト会社は、建設会社(建設JV)と運営会社がタッグを組んで設立されるケースが 多いですね。建設JVは、新たにプロジェクト会社から委託を受けて建物を建設します。建設に係る費用は、 金融団からプロジェクト会社を経由して建設JVに流れます。その後の運営についても、例えば給食の施設を 造る場合を想定しますと、原材料調達会社、レストランなどの給食会社、配送会社らも資金を出し合ってプロ ジェクト会社に参加します。このプロジェクト会社の中でリスクが発生すると、 すべてリスクに一番熟知し 精通している会社がリスクを負うことになります。例えばコスト高になったり工事の遅れでサービス面で支障 を来すと建設JV、原材料の仕入れが出来なくなった時は原材料調達会社、食中毒が発生してしばらく施設を 閉鎖しなければならなくなった時は給食会社と、それぞれがリスクを負い、それに対応することになります。 ◇PFIはイギリスが先駆者ですね。 池田課長 : 日本でも、公共サイドの前向きかつ戦略的発想が出発点になって大胆かつ適切なリスク移転を 進めていくべきだと思います。その点、イギリスなど海外は1日の長があり柔軟な発想で、公共事業も民間に 渡すべきだという考えによって積極的にPFIを進めています。これまで日本のPFIは、施設を建てるだけ の「箱モノPFI」と言われてきました。これからは日本のPFIも、オペレーション部分を拡大したより大 胆な発注に基づく案件を作っていくべきだと言われています。ただし、オペレーション部分のコスト試算は施 設部分と違い必ずしも公共サイドが得意な分野とは言えません。そこをいかに克服するかが今後の課題の1つ かもしれません。 ◇日本のPFIも着実に実施件数が増えていると聞いています。 池田課長 : 日本では、いま250件以上の案件があります。手法も洗練されてきています。かつての様々 な問題点も徐々に解消されてきています。刑務所への適用、さらには道路などのインフラ整備でもPFIの手 法が使えないか、多方面で研究が始められたと聞いています。国の流れが「官から民へ」に移行している現 在、今後はPFIがしっかり根付き、さらに発展していくことを願っています。 (編集部 水谷次郎)