物流分野におけるボーダレス化は国際競争力の激化を招き、特に港湾ではその 機能強化が課題となっている。大阪港では、それら時代の変化に対応するた め、「スーパー中枢港湾」の形成をはじめとして、各種機能の拡充を図るため の施策を推進している。大阪港を管理する大阪市港湾局では、港湾機能の充実 に務めながらも、新たな港湾開発にも力を注いでいる。その先頭に立つ奥田剛 章局長に、夢洲トンネルや新島、さらに防災対策への取り組み、来年度の見通 しなどを聞いた。
【渡辺真也】 咲洲コスモ地区に動き 夢洲トンネル、新島など継続 ――今年度の大阪港の整備状況についてですが、まずは継続事業である夢洲ト ンネル、これの状況はいかがです。 奥田局長:2008年度の完成を目指して工事を進めております。現在は沈埋函 の据付と、咲洲、夢洲の両側アプローチ部の築造を実施しております。咲洲側 はほぼ完成に近づいておりますが、夢洲側は地盤沈下の影響もあり、やや遅れ ておりますが、全体では順調に推移しております。
――新島についてはフェニックス部分が先行しておりますが、大阪市分については。 ◇奥田局長:大阪市の部分については市政や財政改革の中でスローダウンしておりますね。このためフェニッ クスの受入に必要な最小限の工事に止めることになります。ただフェニックスに関しては、事業スキームの見 直しも行われており、国土交通省や環境省にも入っていただき検討を進めています。 ――廃棄物は減量化がポイントですね。 ◇奥田局長:ええ、限られた水域でいつまでも廃棄物を埋立てるわけにはいきませんから、内陸側も排出抑制 の努力をしていただかないと。そのためには投入費用を高くする。高くなれば排出を抑えるーいわば経済原則 にのっとってやっていこうと。またリサイクルやリユースの促進も促していきます。 ――咲洲では、コスモスクエア地区の特に2期地区で動きが出始めました。これは立地促進助成制度や定期借 地方式の適用の効果でしょうか。 ◇奥田局長:大学や住宅、公共施設、研究施設など企業進出があり、工事が始まっております。定期借地に関 してはあまり成果が上がっておらず、現時点では土地は分譲でというニーズの方が高いですね。これには土地 の値段が底を打ったという見方が広がり、「今が買い時」というムードになっています。 ――企業側からの引き合いも多いと聞いており、期待が持てますね。 ◇奥田局長:問合せは多くなっていますね。多くの企業に来ていただきたい。ただ、我々からすれば、長年に わたり造成してきた土地の値段としては安すぎます。都心の一等地に比べれば低いですから、分譲方式でもコ ンペなどで競争性を採り入れ少しでも地価を復元したいと思っております。 ――かつてはコスモススクエア地区を核とした「臨海新都心」の形成が言われておりましたが。 ◇奥田局長:土地やオフィスの需要が右肩上がりで伸びていくという神話がありました。原点に帰って見た場 合、その土地のポテンシャルにふさわしい街づくりがある。そういう視点から、臨海新都心というコンセプト が今日的には必ずしも合致するわけではなく、土地に見合った機能を立地しようという考え方になってきまし た。かつての計画でも見直すところは見直せばいいと思います。 ――スーパー中枢港湾への取り組みでは、国交省が国際物流戦略チームを立ち上げ、港湾の一開港化を推進し ています。 ◇奥田局長:戦略チームと地元港湾管理者で国へ要望し、前向きに取り組んでおります。一開港化の原点は港 則法がベースになっており、海上交通の制御や各種手続きを変えていくもので、これら国の整備が整うのが来 年10月頃になろうかと、ですから我々もそれを目途に動いてまいります。 ――物流事業ではプロロジスが伸びてきてます。 ◇奥田局長:倉庫業界に一つの革命をもたらしていますね。企業形態から資金調達のあり方まで、プロロジス の事業スキームは不動産開発全体に影響を及ぼしています。港湾への影響では、既存の中小倉庫は打撃を受 け、老朽化施設は一掃されるかもしれない。その結果、その跡地利用を見直す機会にもなるでしょうね。 地震・津波対策を推進 〜業界はオンリーワン技術を〜 ――さて、来年度事業ですが、今年度の大阪港港湾整備予算が約297億円となっておりますが、予算規模の見 通しは。 ◇奥田局長:大阪市全体では厳しくなると思いますが、港湾局としては今年度よりは増額での予算要求を行っ ております。これはスーパー中枢港湾やフェニックス事業など、継続事業で完成時期を明示した事業があり、 延ばすわけにはいきませんから確実に予算を計上しており、また新規事業も計画しており、全体としては減額 はありません。 ――防災対策への取り組みとしては。 ◇奥田局長:港湾管理者は同時に海岸管理者でもあり、港湾に面する海岸においても、高潮や津波から都市空 間を守り、生命財産を守るという基本的な役割があり、それに対応した取り組みをするという大原則がありま す。これまで台風や高潮の被害が圧倒的に多く、それらへの対策は1990年代には終わっていました。 ――しかし、近年では地震による津波対策が大きなウエイトを占めてきてます。 ◇奥田局長:ええ、21世紀に入ってからは、それら対策を講じてきた施設が大きな地震に耐えうるかどうかの 議論が始まりました。その結果、やはり持ちこたえられない場所もあり、さらに津波の問題が出てきました ね。 ――地震の揺れとそれに続く津波ですね。 ◇奥田局長:津波は高潮程の潮位はありませんが、すごい運動エネルギーを持っています。その中でも、イン ドネシア沖の大津波でもご存知のように船舶でも流されるエネルギーがあり、これが怖い。ですから地震と津 波に耐えれるかどうかのチェックを実施しています。特に人口密集地域である大正区と港区で、5年の間に耐 震強化対策を終わらせます。 ――それは防潮堤を中心に実施する。 ◇奥田局長:防潮堤は液状化対策が殆どなされておらず、地震による揺れからの倒壊を防がなければなりませ ん。また、鉄扉の開閉という課題があり、地震発生時に如何に速やかに閉めるかで、これはハードよりソフト の問題で、行政と地域住民、学識経験者らにより「みんなで守ろう」と、その体制づくりに取り組んでいま す。 ――なるほど。 ◇奥田局長:しかし私自身は船が流されるのが一番怖いですね。船が凶器になる。船が流され防潮堤に当たっ て防潮堤が壊されることを如何に防ぐか。このため、海上保安庁と共同で津波が来るまでに港内の大型船舶を どうやって沖合に避難させ、津波直接当たらない場所に小型船舶を隠すか、この辺について協議を進めていま す。 ――そうなると港自身が後背地の防波堤の役割を担っている。 ◇奥田局長:仰るとおりです。特に津波に関しては臨海部にこれだけ埋立地が造成されているわけですから、 津波の勢いや高さもかなり減災されます。これはひとつの効果でしょう。 ――ところで、建設業界についてですが、現状をどう見ておられます。 ◇奥田局長:現在の課題は低入札問題でしょう。私が1番心配するのは工事の品質です。調査業務や設計業 務、建設業全体で品質確保が大きな課題ですね。また、それをブレイクスルーするのが技術、独自のオンリー ワン技術を持っていることでしょう。 ――技術重視ということで総合評価方式の導入も始まっておりますが。 ◇奥田局長:確かに総合評価方式などいろんな制度の論議はされていますが、総合評価は制度が非常に複雑で 一定の工事にしか適用されませんし、それ以外でも企業の技術力や仕事に対する姿勢などをしっかり評価でき る方法論を我々も持たなければと思いますね。そのためにも通用する技術力を高めるための努力は必要でしょ う。今日的な状況では、残念なものという共通認識はありますね。 ――仰るとおりです。本日はどうもありがとうございました。