阿食更一郎・(株)亀井組代表取締役 「道楽主義」で仕事は楽しく 総合左官工事業として90年以上の歴史と実績を有し、業界内でも揺るぎない地位を誇る (株)亀井組(大阪市北区中崎2−1−17)のトップが阿食更一郎・代表取締役だ。 1972年に38歳の若さで同社の四代目社長に就任。以来、35年にわたり同社の発展に貢献 してきた。自身も左官職人として技能を修得し数多くの実績と経験を持つ。同社は「動 楽主義」を掲げている。要は「仕事は楽しくする」ということだ。また、専門工事業の リーダーの一人として大阪府左官工業組合をはじめとする各団体の要職も務め、業界の 地位向上にも尽力している。業界を取り巻く環境は厳しいが、職人にはやる気と誇りを 持たせることが大切であり、それがものづくりの本質だと考えている。亡き父の教えだ と思っている「誠実に勝る智恵なし」を座右の銘として人生を歩んできた。今後も「誠 実」を貫いていくという阿食社長にこれまでの苦労や思い出、そして今後の夢などにつ いて聞いてみた。
―――初めにご自身の1日の平均的なスケジュールからお聞かせ下さい。 「朝は5時半に起き、6時40分に川西市の自宅を出て、梅田まで車で送ってもらい、12・3分歩いて中崎町の 会社まで来るのがここ30年の日課となっています。会社に着くのはだいたい8時前後です。梅田から会社まで 歩く途中で色んなことを考えたり、あちこちにビルが建って変わっていく大阪の街並みを見るのを楽しんでい ます。午前中に会社の用事を済ませ、午後からは得意先や現場を回ったりして昔は遅くまでいましたが、最近 は18時半頃には自宅に帰るようにしています」 阿食社長は1972年に38歳で(株)亀井組の社長に就任。以来、35年にわたり左官工事業の老舗であり、名門で ある同社の発展に貢献してきた。大阪府左官工業組合の理事長をはじめ上部団体の社日本左官業組合連合会、 社大阪府建団連のそれぞれ副会長を歴任するなど専門工事業のリーダーの1人としても活躍。建団連では現在 も副会長を務めている。 ―――亀井組の会社案内のパンフレットを見ると「私たちは動楽主義の会社です」と書かれていますが。 「要は仕事は楽しくということです。人間だから自ら動きたい、動いていると感じるものがある。感じる、動 くと書いて『感動』。感動があるから楽しい、楽しいからもっと動きたくなる。これは職人にも言えること で、何もかもマニュアルどおりにすることを求めるのではなく、職人たちに考えさせて自由にやらせ、仕事に 対する誇りを持たせることも必要。それがものづくりの本質でもあると思っています」 阿食社長自身も左官職人として技能を修得し多くの経験と実績を持つ。現場で苦労して働く人がいるからこそ 会社があると考える。現在は乾式工法が中心となって、昔ながらの湿式工法は少なくなった。それでも与えら れた材料を使ってただ壁を塗るのではなく、自分で素材を考えて材料を作り、コテを使って塗る技術力は世界 でも日本だけのものと力説する。 ―――思い出に残る仕事や現場があれば教えて下さい。 「まだ入社したばかりの1957・8年頃に携わった住宅公団の天神橋住宅かな。当時の現場所長に材料の歩掛か りなどを教えてもらいました。それと、東京のテレビ朝日、当時教育テレビのスタジオの工事ですね。今の六 本木ヒルズビルが建つ前の建物です。工期に間に合わせるよう昼夜兼行で作業をしたのが思い出に残っていま す」 昔の話になると、少年のように目を輝かせて話す。当時の仕事での苦労や楽しかったことをまるで昨日のこと のように懐かしんでいるに違いない。根っからの左官職人だ。だから職人を思う気持ちは誰にも負けていな い。 ―――社長の趣味をお聞かせ下さい。 「趣味はゴルフと読書ですが、ゴルフの方は回数が減りました。読書は司馬遼太郎や山岡荘八、吉川英治、最 近は堺屋太一などの本が好きですね。司馬遼太郎の本はほとんど読んでいます。彼の『街道をゆく』のシリー ズに全国の社寺を訪れる本があり、彼自身の感想が書かれているのですが、私も将来時間があれば、実際に本 で書かれた社寺を訪れ、私自身が当時の時代背景やさの土地の文化、習慣などを感じて、本に書かれた感想と 比べてみたいと思っています」 ―――家族のお話をお願いします。 「家族は妻と子ども3人(2男1女)で孫が5人います。子どもたちはそれぞれ独立して、現在は川西市の自 宅で妻と2人で暮らしています」 ここ3、4年は奥さんを連れて旅行することも増えたとのこと。ただし、阿食社長の仕事関係の出張のついで だそうだ。阿食社長がイベントや講演会に参加している時に、奥さんが観光しているという具合。たまには仕 事を忘れ、ご夫婦一緒で本当の奥さん孝行を。 ―――最後に、社長自身の座右の銘やモットーなどがありましたら。 「私が生まれる1か月前に父が病気で亡くなり、父の顔をまったく知らないのですが、たまたま20歳頃に見た 位牌の戒名に『誠実居士』と書かれていたのです。その時に何か運命的なものを感じ、亡き父の教えとしてず っと誠実の文字を頭に『誠実に勝る智恵なし』を座右の銘に生きてきました。これは今後も貫いていくつもり です」 今年11月30日に73歳を迎える。若さの秘訣は仕事に対する意欲かも知れない。好奇心も旺盛だ。会社のトップ としては他社とは違うところを、また左官職人の若手にはやる気と誇りを求める。今後はなるべく早く社長業 は次の人に譲り、左官工事業、専門工事業の相談相手の役に回り、それなりの持論が言える立場でありたいと している。まだまだ忙しい日々が続きそうだ。
【聞き手=ツールバンク(株)・永本伸一】
【文・構成=曽碩和彦】 阿食 更一郎 あじき・こういちろう・1955年1月亀井組入社、1965年4月取締役、1972年5月代表取締役(現在に至る)。 1993年5月社日本左官業組合連合会副会長、2004年5月相談役(現在に至る)。1993年5月大阪府左官工業組 合理事長、2002年5月相談役理事(現在に至る)。1993年10月社大阪府建団連副会長(現在に至る)。1989年 五月社全国建設専門工事業団体連合会会長表彰、1994年十月大阪府中小企業団体中央会会長表彰、同年10月大 阪市長表彰、1995年7月建設大臣表彰、1996年11月黄綬褒章、2004年11月旭日双光章。島根県出身、72歳。