大阪で唯一の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている富田林市の寺内町 に、歴史と現代の暮らしがコラボレートした、土地柄に合わせるコーポラティ ブ方式によるコーポラティブ住宅「まちやガーデンハウス」(建築宅地条件付 分譲、四邸)が完成した。四邸とも木造二階建て、内装は入居者の自由設計で 現代的な空間構成とする一方、外観は歴史的な町並みに調和している。このプ ロジェクトの全体統括コーディネートを務めた(株)COM計画研究所(代表 =高田昇・立命館大学政策科学部教授)は9月30日、現地で事例見学会を開催 した。「歴史的町並みの活性化へ、新しい活路を開くことができれば」と語る 高田教授と、この町を愛する関係者の方々と共に歴史的空間の価値を活かす新 しいまちづくりの動きを確かめた。(池上健史) ※写真上:寺内町のまちや・ガーデンハウス ※写真下:陶芸家の坂本光枝さんが営む「工房飛鳥」で。 写真右は高田教授
〜COM計画研究所・事例見学会開催〜 良く晴れた日の午後で、近鉄長野線・富田林駅前の市場筋を南へ徒歩5分のところ、今年4月にオープンした 木造2階建て瓦葺きの「じないまち交流館」(富田林町九)に、高田教授をはじめCOM計画研究所のスタッ フ、富田林市教育委員会の職員など関係者60人が集まった。高田教授らスタッフの案内で寺内町の様子と、ま ちやガーデンハウスを見学した。 450年前に宗教自治都市として誕生した寺内町は東西約400m、南北約350mの広がりを持ち、日本瓦の傾斜屋 根に格子戸、昔ながらの漆喰の白壁や板壁の美しい町家が軒を連ねる町並みに江戸・明治・大正・昭和の各時 代の歴史文化の風情が薫る。町では地元住民と行政の足並みを揃えながら、「景観を守る」という姿勢で歴史 的空間の価値を活かす新しいまちづくりへの動きが確かに広がりを見せていた。 交流館から東南へタウンウォッチングしながら歩くこと約10分、遥か昔の時代にタイムスリップしたように町 景色が一変した。記者の感慨かもしれないが、町家を見上げると、周囲を白い漆喰で固めた虫籠窓や、煙出 し、駒つなぎ、忍返し、格子窓、鬼瓦など古くからの間取りや設備の価値の魅力に引きつけられた。現存して いる古い町家や日本家屋510軒のうち1966年以降は197軒残る。これまでに100棟以上が修理・修復され、こ の町並みに磨きがかけられているという。 交流館から東南に位置する日本の道百選の「城之門筋」を軸に東西の町家や商家を見て歩き、様々な思いを巡 らせながら、石川近くの丘陵に誕生した「まちやガーデンハウス」をめざした。電線や電柱は目立たず、石畳 で整備された道を南へ歩くと、町で初めて修復されたという「田中家」に出合う。隣接地では「妙慶寺」の修 理・復元工事が進み、また、町の中心である「興正寺別院」が立地している。 寺、院の合間を南西へ歩き、町で唯一の鉄筋構造でできた「市立富田林保育園」の外観を見、その並びには町 の顔である「旧杉山家」が創建当時のまま残されている。酒造として繁栄したものの、後継者が途絶え転売の 危機に陥ったところを市が所得したという。日本の財産として1983年に重要文化財に指定されている。 見学ルートを歩いていると、歴史的街並みにとけ込む町家のユニークな「ガレージ」に気づかされた。それは 新しい建築様式の一つではないかと思わせる。また、陶芸家の坂本光枝さんが古い町家を改装して2001年に開 業させた「工房飛鳥」に立ち寄り、店内の陶芸品や内装を見ていると、外観は歴史の風情を残しつつも、内装 は現代人の生活空間がしっかりと根付いていた。見学者の女性から「ステキなお店」という声も聞かれた。 町は静かで落ち着いていて、懐かしい佇まいが魅力的だが、若者の町外転出が生じている。高田教授は「若い 世代には住み難いといったジレンマがある」と話す。若者が減少する一方、高齢化が進むと活気が失われると 危惧されている。「何か起死回生の道はないものか」(高田教授)。そこでコーポラティブ方式を得意とする COM計画研究所が、「この町の町並みにとけ込める『新町家』をつくり、若い世代を取り入れて、建物も人 もこの町に馴染める環境を形成したい」との思いで、昨年3月に富田林寺内町町並み環境整備委員会へ働きか け、まちやガーデンハウスの計画が実現した。今年1月に着工、4月〜9月にかけて竣工、入居の運びとなっ た。 まちやガーデンハウスでは、高田教授のガイドで土地柄に合わせたコーポラティブ住宅を熱心に見て回った。 4邸(A〜D邸)の外観は定められた伝建地区の建築基準に沿って格子・板戸が施され、また塀を見せないオ ープン外構に石畳と芝生による通路、広場空間がつくられている。4邸が共有する花と緑のガーデニングも特 徴的だ。4邸とも30代、40代の若い家族連れが集まり、若い世代を転入させるという狙いがあたった。 「4邸とも町家の特色である土間、縁側、屋根裏といったものを上手に現代の生活空間に取り込まれている。 結果、それが合理的にコンパクトな間取りに活かされている」とは高田教授。学生の子供がいるA邸では個人 生活を意識した設計が施され、B邸はリビングと一体となった広い土間を設けて、そこでカフェなどのショッ プとしての利用が考えられているという。 見学者を温かく迎え入れてくれたB邸の光源はなさんは「ここは自然空間に満ちているので、自然の恵みを浴 びながら子供が成長する姿を楽しめる」と話す。また、幼い子供を抱えているC邸、D邸は、子供の成長に合 わせる生活設計が施されている。 町では地元商店街を中心に町に活気を取り戻そうという機運が高まっている。工房飛鳥の坂本さんや一級建築 士事務所のNEOGEOらも町の活性化へ一役買って「富田林じない市」に参画している。第5回じない市は 14日10時から。 〜「まちやガーデンハウス」に熱視線〜 同日13時30分、見学会に先立って「じないまち交流館」(富田林町9)2階・和室(37.5畳)で、富田林市寺 内町の町並み保存の経過と、まちやガーデンハウスについての説明会が開かれた。冒頭、全体統括コーディネ ートを務めた高田教授は、「地域住民の人々や富田林市職員ら関係者の方々の協力を得て、歴史的なこの町 の、土地柄に合わせたコーポラティブ住宅(新町家)が完成しました」と挨拶した。また「(新町家の誕生を 機に)、寺内町の町並みの活性化へ、新しい活路を開くことができれば」と力を込めた。この後、富田林市教 育委員会生涯学習部文化財課からスライドを使用して、寺内町の町並み保存の経緯とまちづくりの動きなどに ついての説明が行われた。 寺内町のまちやガーデンハウス 建設地は富田林市富田林町18-27。敷地面積522.2?(料亭跡地)。総区画数4区画。土地・建物・外構・設計 費含む取得費用は約2,700万円から3,200万円。工事完成・入居は4月から9月。事業主は豊電建(株)、実施 設計・施工は大阪土建(株)、基本設計・全体統括コーディネートは(株)COM計画研究所 設計協力=ジーピーアソシエイツ、事業推進協力は富田林寺内町をまもり・そだてる会。 取材を終えて++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 歴史的町並みの再発見というものが各地で盛んだが、魅力的なまちづくりの第一歩は、そこで何ができるかを 実際に住んでいる人たちが考えることではないか。帰り際、城之門筋に立ち町景色を一心に眺めながら、「生 きた町」をつくるにはまちづくりコンサルタントの知識と知恵も大切で行政の協力も必要だが、圧倒的な数の 住民の自主的参加が不可欠ではないかと思った。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++