10年に一度の大雨にも対応 10年に一度の大雨にも対応―。京都市上下水道局下水道部下水道建設事務所 が、浸水対策事業の一環として建設を進めている「有栖川ポンプ場」のポンプ 場築造工事がこのほど完成した。有栖川流域の浸水対策のための根幹となる貯 留式の幹線下水道に貯留した雨水を、河川水位の低下を待って有栖川へ放流す る中核施設で、ポンプ能力は毎分14立方m。土木・建築工事の施工を担当した 五洋・公成特定建設工事共同企業体では、京都市右京区嵯峨野東田地内に設け た有栖川北幹線の発進立坑跡地において安全第一に品質の向上を目指し、全工 期無事故・無災害のうちに高精度施工を達成。今後本格化していく機械・電気 設備工事に対する確かな指針も残して多くの関係者から寄せられていた期待と 信頼に応えた。
【写真上:完成した有栖川ポンプ場】
【写真下:地下1階】
〜「安全・安心の街づくり」を先導〜 生活環境の改善、公共用水域の水質保全に加え、近年になって頻発する都市型浸水の防除などに寄与する下水 道事業に京都市が取り組み始めたのは1930年のことで、1934年に吉祥院処理場、1939年に鳥羽処理場の供用を それぞれ開始した。 第2次世界大戦の勃発により、拡張事業は一次中断したものの、戦後の復興期から高度 経済成長期にかけては、生活環境の改善、淀川水域をはじめとする公共用水域の水質汚濁防止の必要性が高ま り、周辺部へと拡大する市街地全域の整備を目指し、下水道整備を積極的に推進。1967年に下水道整備緊急措 置法が制定されたのをはじめ、公害対策基本法の制定、下水道の改正といった国を挙げての下水道整備の促進 が軌道に乗る中、京都市においても1973年に伏見処理場、1981年に石田処理場の供用を開始するなど、事業の 進捗を着実に図っていった。 また、京都府の流域下水道整備に合わせて、流域関連公共下水道にも着手し、1979年に桂川右岸流域関連、平 成元年に木津川流域関連の供用をそれぞれ開始。こうした取り組みにより、平安建都1200年にあたる1994年度 には、市外化区域の下水道整備が概成するとともに、調整区域での整備にも本格的に着手し、平成12年度末 現在において、整備面積1万4,997ha、下水道普及率99.1%に達している。 しかし、京都市の下水道は、▽下水道の未整備地区の存在▽浸水被害の発生▽市内河川の汚濁▽淀川・大阪湾 の水質保全▽汚泥埋立処分の限界▽下水道施設の老朽化ーなどの課題を抱えており、抜本的な解消を図るため の対応策が強く求められている。 このため、「だれもがずっとここでくらし続けたいと思えるまち、くらしに安らぎがあり、まちに華やぎがあ る、住みやすい場所」を目標像として21世紀のまちづくりを進めている京都市においては、21世紀の京都のあ るべき姿を描く「京都市基本構想」に基づき、今後四半世紀にわたって取り組むべき下水道事業の方向性を示 す「京都市下水道マスタープラン」を策定。目標年次を京都市基本構想と同じく2025年とし、「安らぎのある くらしのために、活力と魅力あふれるまちづくりのために、広域的な環境保全のために、基盤施設として下水 道の機能向上を図る」という基本理念の達成を目指していく。 この基本理念を実現するため、▽普及100%▽雨水整備▽合流式下水道の改善▽高度処理▽汚泥処理▽改築・ 再構築と地震対策▽施設・資源の多目的利用―の7つを機能向上計画として掲げ、各施策を段階的に展開して いく京都市。具体的には、?様々な工夫によりコストを縮減し、効率的に事業を進める?機能間の関連・整合 を調整して円滑に事業を進める?事業を着実に実行し、早期に明確な効果を得る?長期的展望のもと、発展性 のある事業を進める?省資源・省エネルギー・環境負荷の低減を徹底するーという方針に基づいて施設整備と 運用を推進していく。 このうちの雨水整備については、都市化の進展や集中豪雨による都市型浸水が近年において増加する傾向にあ るため、雨水整備の目標となる降雨を5年確立降雨(52m/時)から10年確立(62m/時)まで引き上げ、より安 全で安心な都市環境の実現を目指して雨水幹線や貯留施設を整備していく方針で、浸水被害の解消に努めてい く。 その一環として、有栖川流域においては、浸水対策のための根幹となる貯留式の幹線下水道「有栖川北・中 央・南幹線」の工事を推進。これらの雨水貯留幹線は、ポンプ場・調整池の築造により、10年に一度の大雨に 備えるもので、合計延長は約3,400m(北幹線約1,000m、中央幹線約2,000m、南幹線約400m)、貯留量は約3万 9,000立方mとなっている。 このほど土木・建築工事が完成した有栖川ポンプ場は、京都市右京区嵯峨野東田地内に設けた発進立坑から府 道嵯峨野西梅津線を北方向に府道二条停車場嵐山線(三条通り)までの道路下(土被り約14m)に下水管を泥 土圧式シールド工法で築造した有栖川南幹線の発進立坑を利用して建設したもので、ポンプ能力は毎分14立方 m。流入室、ポンプ井(下部・上部)、ゲート室、配管室、搬入室ならびに吐出口などで構成されている。 有栖川北・中央・南幹線に貯留した雨水を、河川水位の低下を待って有栖川に放流する有栖川ポンプ場は、 「安全・安心の街づくり」に大きく寄与する中核施設で、今後、機械・電気設備、外構工事が進められてい く。 〜五洋・公成特定建設工事共同企業体、土木・建築工事に息づく確かな技術力〜 有栖川南幹線の発進立坑に建設した有栖川ポンプ場は、有栖川流域における浸水対策のための根幹となる貯留 式の幹線下水道に貯留した雨水を、河川水位の低下を待って有栖川へ放流するための中核施設で、「安全・安 心の街づくり」を大きく前進させる。雨水貯留幹線、調整池と相まって、10年に一度の大雨にも対応できる有 栖川ポンプ場築造工事の施工を担当し、多くの関係者から寄せられていた期待と信頼に応える高品質施工を全 工期無事故・無災害で達成したのは五洋・公成特定建設工事共同企業体。山本雅啓所長をはじめとするJVな らびに各協力会社の優れたスタッフが、「基本に立ち戻り作業員全員による作業内容の周知徹底を図る」とい うスローガンに基づきながら安全第一に品質の向上を目指していった。 その工事は、シールド工事の竣工検査(2005年6月6日)が完了した翌日から軌道に乗り、最初はシールド立 坑床版コンクリート撤去に着手した。 この後は、8段目土留め材の設置に引き続いて掘削ならびに立坑の築造を推進。GLマイナス22mまで掘進す る大深度掘削に当たっては、ポンプによる排水に努めてドライワークを保った。 7月から始まった躯体工事では、コンクリート打設毎に7から1段目までの土留めを撤去しながら足場・鉄 筋・型枠の組み立てを繰り返しつつ、14回に亘って上床版のコンクリートを輪切り状態で打設。これは、敷地 一杯を構造物が占めるという作業条件から、コンクリートポンプ車一台での施工を余儀なくされたために講じ た措置で、1日当たりの打設量も120立方m前後に限定されていた。 また、「縦割での施工が無理な水槽工事だったので、輪切り状態で進めた地下躯体工事におけるコンクリート の総量は、約2,000立方mにも達した」(山本所長)。このため、打ち継ぎ面からの漏水防止に対する品質管理 にも神経を使った五洋・公成特定建設工事共同企業体では、打ち継ぎ処理を確実に実施するとともに、マスコ ンクリートの習性である発熱量を抑えるため、打設後の養生には十分な日数を確保するなど、基本に忠実な管 理に努めて高品質を確保した。 こうした苦労が伴った上床版のコンクリート打設は、今年の4月3日に完了するに至り、階段部の施工を経て 5月のゴールデンウィーク明けから建築工事へと入った。 躯体コンクリートの打設を同月31日に果たしてからも各工種の施工は淀みなく進捗し、予定通りに機械・電気 設備工事ならびに外構工事へとバトンを渡した。 この間、五洋・公成特定建設工事共同企業体では、作業内容の予告など、近隣に対する工事期間中の迷惑防止 に万全の対応策を講じるとともに、工事用搬入路が通学路に当たっていたため、通学時間帯を避けた搬出入の 実施はもとより、その日の作業内容に合わせたガードマンの確保ならびに適材適所への配置によって第3者災 害の防止を図った。 また、現場内においては、構造上、開口部が数多く出来るため、先取り養生を確実に実施することで作業員の 墜落・転落災害の防止に努めるとともに、「この現場から怪我人を出さない」という合い言葉の下、目配り・ 気配りを実践していった。 この結果、全工期無事故・無災害を達成して有終の美を見事に飾った五洋・公成特定建設工事共同企業体。 今後本格化していく機械・電気設備工事などに対する確かな指針も残した。 山本雅啓所長の話 地域の浸水対策の一翼を担うポンプ場築造工事の早期完成を目指し、JV職員ならびに各作業員と一体となっ て取り組みました。しかし、構造物は地下20m以上の深さがあったため、資材の出し入れや湧水対策・土留め 材の撤去などに苦労したばかりでなく、なによりも狭い空間における長尺物の耐震用鉄筋を200トン組み立て ることの難しさを痛感しました。俗に言う「鉄型コン」の特徴で、一つ一つ積み重ねていく繰り返しの作業な らびに極めて不効率な作業が連続する中、この現場に従事した約3,200人の技能工の方々の努力により、無事 に完成を迎えることができたのは大きな喜びであり、改めてお礼の言葉を贈ります。また、関係各位のご支 援、ご指導、近隣の皆様方のご理解、ご協力に対しまして心から感謝申し上げます。