大阪の都心部でも、タワ-クレ-ンの数が増え、高層ビルの建築が相次いでいる。また、これまで空き室が多かったオフィスビルの入居率も次第に改善され、立地の良い梅田や中之島周辺のビルは、満室になるケ-スも多いという。景気回復が大きな原動力となり、沈滞していた都市再生への機運も蘇ってきた。その大規模開発の取り組みをプロデュ-スしているのは都市再生機構。現在、関西のリ-ディングプロジェクトとして注目されている「大阪駅北地区」(梅田北ヤ-ド開発)をはじめ、御堂筋活性化のシンボルとして期待されている「淀屋橋地区」開発、水都・大阪再生を象徴する中之島の「福島1丁目地区」開発に参画し、地方公共団体や民間事業者らと適切な役割分担のもと、都市再生の誘導・拡大を着実に図っている。そこで都市機構西日本支社業務ユニットの渡部久仁雄総括リ-ダ-に、この3つのプロジェクトの概要や都市機構の役割・支援について聞いてみた。渡部久仁雄・西日本支社業務ユニット総括リ-ダ-に聞く豊富な事業手法で、まちづくりをコ-ディネ-ト--まずはじめに超高層ビルの建設が目立っている背景についてお聞きします。渡部総括リ-ダ-やはり景気回復が一番大きく、それだけビルの需要が増えてきたことだと思います。4、5年前は、オフィスビルの空き室が結構多くみられましたが、いまは大分改善されてきました。特に立地のよい梅田周辺や御堂筋などは、ほとんど埋まっている状況ではないかと思います。もう1つは、都心のマンションに住みたいという都心回帰がみられること。かつて減少傾向にあった大阪市の人口も最近は増加に転じており、特に中心部でその傾向が顕著であると聞いています。数年前までは、400〜500戸単位でマンションを供給するなんて考えられませんでした。大阪もこの1、2年で需要環境が好転してきたことが、大きな要因だと思っています。--景気回復が追い風となって、開発機運が高まってきたということですね。その観点から都市機構の役割や支援もますます重要になるかと思います。渡部総括リ-ダ-都市機構では、「人が輝く都市をめざして、美しく安全で快適なまちをプロデュ-スします」という方針のもと、民間が都市再生に取り組みやすいよう事業機会の創出、基盤整備、事業の下地づくりなどを行ってバックアップしております。例えば民間が再開発を実施しようとすれば、多額の投資やノウハウが必要であること、権利関係が複雑な場合は事業が長期化すること、さらには跡地の活用方法をどうすべきかなど、民間単独では様々な難しい問題が発生します。私どもはこのような課題に対応し、「専門家集団」として、整備構想の策定や土地利用計画案の作成、行政との調整、事業手法・事業計画の検討に至るまでコ-ディネ-トを行い、民間のパ-トナ-として事業をサポ-トしています。(わたべ・くにお)昭和51年3月大阪大学(建築工学専攻)卒。52年4月1日日本住宅公団入社、平成9年6月1日住宅・都市整備公団関西支社堺市駅前再開発事務所長、15年7月1日都市基盤整備公団本社管理業務部住宅保全課長、16年7月1日都市再生機構本社住宅経営部住宅保全課長、17年7月20日西日本支社業務第一ユニット総括リ-ダ-、18年6月1日西日本支社業務ユニット総括リ-ダ-。--その担当が業務ユニット。渡部総括リ-ダ- はい。西日本支社の管轄は、中国・四国地方までを範囲としていますが、私たちの仕事のメインは大阪市内や神戸市内、京阪神間の大都市を対象としています。主な業務は、大規模な工場跡地などについて土地利用転換を促進し民間による都市再生を支援しているほか、土地区画整理事業、災害に強い都市構造の形成に向けた防災公園街区整備事業、さらに今後は密集市街地の改善を図るため、関係市町村と協議を進めているところです。その一つとして、門真市や堺市の密集市街地整備事業を検討しています。いま、関西支社の都市再生事業で動いている主なプロジェクトは、大阪駅北地区、淀屋橋地区、福島1丁目地区の3地区です。大阪駅北地区Bブロック全体イメージ図大阪駅北地区未来生活を創造先端技術など発信--様々な事業手法で、民間による都市再生をプロデュ-スされているわけですね。大阪駅北地区は、都市再生のリ-ディングプロジェクトとして大きな注目を集めています。それでは、具体的に大阪駅北地区から3地区の事業概要や進捗状況について教えて下さい。渡部総括リ-ダ- 大阪駅北地区は、ご存じのように昨年10月29日に第一期先行開発区域となる大阪駅北大深東地区土地区画整理事業(約8.6?)の起工式を行いました。いま、道路下の埋設管の整備、鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)による既存の建物の取り壊しなどを進めています。また、都市機構と鉄道・運輸機構は共同で、先行開発区域(A・B・Cブロック)の開発事業者募集(事業企画提案方式)を実施し、すでにBブロック(ナレッジ・キャピタルゾ-ン約1.5?)の開発事業予定者を今年五月末にオリックス・リアルエステ-ト?を代表とするグル-プに決めました。引き続きAブロック(ふれあいのゾ-ン約1.1?)とCブロック(よそおいのゾ-ン約1.2?)の募集手続きを行い、今年10月には開発事業者を決定する予定です。まちびらきは、平成23年春の予定です。--ナレッジ・キャピタルとは?渡部総括リ-ダ-大阪駅北地区はキタの持つ高いポテンシャルを活かし、未来生活の提案・体感・学習をテ-マとした新たなナレッジを創出する「未来生活の創造・受発信拠点」を目指しています。具体的には、ロボットテクノロジ-やユビキタス・IT、ナノテクノロジ-、バイオテクノロジ-、環境技術などの「先端技術分野」、デジタルコンテンツ、ツ-リズム、ユニバ-サルサ-ビス、映像などの「感性・感覚(ソフト)分野」、大学・大学院、専門学校、子供向け体験学習、経営人材育成などの「学習・教育分野」の三つの対象領域を設定し、創造・展示・交流・発信・集客の五つの基本機能を備えたまちを目指しています。--まさに大阪の一等地にふさわしいビジョンですね。上物に着手されるのは、いつごろになりそうですか。渡部総括リ-ダ-スケジュ-ルでは、来年の6月に土地を開発事業者に引き渡し、その後、諸手続きを経て、平成20年春には建築工事に着工できると考えています。淀屋橋地区御堂筋ににぎわいをもたらす「ストリ-ト型複合空間」--大規模なビルが建設される淀屋橋地区の再開発も注目されています。この地区は、渡部総括リ-ダ-が直接担当されていると聞いています。渡部総括リ-ダ-淀屋橋地区については、昨年11月に淀屋橋地区第一種市街地再開発事業の特定建築者が三井住友海上火災保険?・三井不動産?に決定し、今年2月に起工式を行いました。建設場所は大阪市中央区北浜4丁目、今橋4丁目の一部で地区面積は約0.8?。地下鉄御堂筋線淀屋橋駅に直結し、京阪本線淀屋橋駅へ徒歩3分、地下鉄四ツ橋線肥後橋駅へ徒歩5分でそれぞれアクセスできます。敷地は都市機構が土地有効利用事業により、敷地整備を行った土地と民間の地権者の店舗や事務所、閉校となった大阪市立愛日小学校跡地など、低未利用淀屋橋地区の完成予想図であった地区の一体的な高度・有効利用を図るものです。施設建築物はA棟(北棟)とB棟(南棟)で構成し、いずれも地下3階地上16階建てとしています。延べ床面積はA棟が約4万6,700?、B棟が約4万4,600?となっています。いま地下の工事を進めており、平成20年春には完成する予定です。--ビルの特徴を教えて下さい。渡部総括リ-ダ-御堂筋沿いに、にぎわいをもたらす「ストリ-ト型複合空間」の創出をコンセプトとしています。御堂筋は銀行やオフィスビルが多く、店舗が少ないという現況から特に夜は活気の面で問題があると感じていました。東京の丸の内もかつては御堂筋と同様にオフィスビル中心のまちでしたが、そこに店舗などが設置され、ずいぶん変わってきたと聞いています。淀屋橋地区も、低層部に店舗やレストランなど、淀屋橋・御堂筋界隈の活性化の起爆剤となるにぎわいのある商業施設が導入される予定です。例えば、今橋通や北浜通沿いにポルティコと呼ばれる回廊を設置して、そこを歩いてショッピングが楽しめるような店が並んでいる、といったイメ-ジですね。すでに建設するビルの西側では、これまではオフィス中心でしたが、最近はレストランなどの店も出来てきました。また、御堂筋の南の方ではカフェやおしゃれな店舗が入ったビルも目立ち始めました。淀屋橋地区の開発が、今後建設されるビルにも大きな影響を与え、夜のにぎわいを醸し出すきっかけになればと思っています。御堂筋も、こうしたビルがどんどん繋がっていくことを期待しています。--御堂筋の再生では、近畿地方整備局も「光とにぎわいのある夜間景観社会実験」を昨年暮れに実施され、照明の演色性などに大きな成果を収められました。渡部総括リ-ダそうですね。関係機関とは、今後も連携を一層深めて魅力ある御堂筋の再生を目指したいと思っています。--大規模なビル建設のために、建物も御堂筋からセットバックさせ、ツインビルとして計画されています。渡部総括リ-ダ-2棟構成で機能はそれぞれ独立していますが、デザインは同じ、また地下を含む低層部分で繋げていますので、2棟のビルを一体的に使っていただけると思います。また、都市再生特別地区として都市計画決定していただいたことにより、御堂筋の街並みに配慮しつつ、建物の高さの最高限度を710?に、容積率を1,300%に緩和していただきました。--高さも御堂筋沿いでは一番高くなる?渡部総括リ-ダ-本町から淀屋橋までの御堂筋沿いでは、当面一番高いビルになりますが、ビルの建て替えが進み都市再生特別地区として認められれば同様の高さのビルが建つ可能性もあります。今後はそういったビルも出てくると思います。福島1丁目地区の完成予想図福島1丁目地区水都・大阪再生の象徴 49階建て超高層--大阪・中之島も新しいビル建設が進んでいます。福島一丁目地区についてお聞きします。渡部総括リ-ダ-この開発は大阪大学病院跡地を都市機構が取得し、大阪市が設置した同病院跡地利用懇談会がとりまとめた提言を踏まえて、事業企画提案方式によるA・B街区の事業者募集を平成15年度に行いました。同年12月にはA街区(敷地面積約8,500?)の事業者に朝日放送が決定し、建築中です。B街区(同約1万2,700?)も平成16年六月にオリックス・リアルエステ-トを代表企業とするグル-プに決まり、B-1(同約五、697?)はオリックス・リアルエステ-ト他四者の企業グル-プが一部商業施設を導入した分譲・賃貸住宅の超高層ビル建設にとりかかっています。B-2(同約2,679?)もオリックス・リアルエステ-トが商業施設・伝統芸能教室・ショ-ル-ムの入ったビルを建設します。着工は来年春の予定です。B-3(同約4,321?)については、ビ-プラネッツがまもなく着工する予定で、商業施設・多目的ホ-ル(1,200席)と賃貸住宅で構成したビルになります。まちびらきは、淀屋橋地区と同じ平成20年春にオ-プンする予定です。--超高層ビルは、中之島のシンボルになりますね。渡部総括リ-ダ-扇形の地下1階地上49建て、高さ約180?、延べ床面積は約7万3,500?です。屋外空間では、環境整備ガイドラインを策定し、水辺環境に配慮した広場、プロムナ-ドなどの公共的空間の整備を誘導しています。「水都・大阪」再生を象徴する新しい複合拠点ができると思っています。重要なまち全体の景観と維持管理--今後のまちづくりで、重要な点について。渡部総括リ-ダ- 景観法も出来ました。今後は景観を重視したまちづくりにますますウエ-トが置かれると思います。大阪駅北地区の場合は、まちづくり基本計画で景観の考え方がある程度示されていますが、それをさらに具体化するため、今後はサイン計画や歩行者導線などの一体整備なども重視していきます。まち全体を見た美しさですね。もう一つ重要なのは維持管理。これまでは、ハ-ドな開発計画に重点が置かれいたように思います。今後は、まちが出来て20年、30年とにぎわうよう、ソフトなマネジメントも必要になってくるだろうと思います。すでに御堂筋でも協議会がつくられ、まちおこし的なイベントを開催されるなど、みなさんが活気のあるまちにしたいと活動されています。一つ一つの美しいビルを建設していくのはもちろん大事なことですが、その後、まちの活性化を広げていくためには、地区全体で活動していかなければいけない、ということですね。さきほどお話しました東京・丸の内の場合でも、開発の事業者が中心になってハ-ドとソフトの両面でまちづくりを進めた結果、土・日曜日でも人通りが多くにぎわいのあるまちになっています。そういったエリアマネジメントの活動が、今後、大阪でもますます大事になってくるだろうと思っています。--おっしゃるとおりです。まちをどう維持し管理していくかということですね。渡部総括リ-ダまちを単体としてみるのではなく、まち全体で広がりを持ってみていくことですね。御堂筋のような地権者などによる協議会の活動、要するにまちづくりのネットワ-クを拡充していくことが重要だと思います。--最後に都市再生のに向けた決意をお聞かせ下さい。渡部総括リ-ダ私どもは、公共団体と民間の間に立てる立場ですから、事業を進めるに当たってご相談があれば、遠慮なく声をかけていただきたい。協力関係の中で、改善策が見つけられるよう最善の努力を払います。2年前の平成16年7月1日に都市基盤整備公団から都市再生機構に移行して以来、上物整備はできる限り民間事業者に行っていただき、都市機構は土地の取得や基盤整備などを通じてサポ-トするなど、その役割は従来とは相当変わった面もあります。皆さんには、まだその辺りが少しご理解いただけておらず、都市機構の役割について浸透度が弱い面があります。冒頭でもお話しました「美しく安全で快適なまちをプロデュ-スします」という方針に沿って、構想・計画づくり段階から事業実施段階に至るまで、さまざまな立場で事業化をコ-ディネ-ト・支援しておりますので、今後ともご協力のほどよろしくお願いします。--私も都市の防災性向上などの面から、都市再開発は緊急の重要課題であると認識しており、都市機構の役割に今後も大きな期待を寄せています。きょうは、大変お忙しい中、貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。(水谷 次郎)