下り高架線(和歌山方面行)の供用開始 待望の全線高架切り換えが実現し、ゆとりと潤いのある都市空間の創出に強い インパクトを与えた―。大阪市、西日本旅客鉄道(株)が、都市計画事業とし て進めてきた「大阪都市計画都市高速鉄道JR阪和線連続立体交差事業」の下 り線(和歌山方面行き)高架化工事がこのほど完成し、21日の始発電車から切 り換え運転を開始した。踏切による交通渋滞や交通事故の解消などを目的とし て、大阪市阿倍野区文の里4丁目から住吉区杉本3丁目付近間(約4.9?)に おいて1999年度から高架化工事を進めていたもので、上り線(天王寺方面行 き)については2004年10月に切り替えが完了。これに引き続いて、今回、下り 高架線の供用が開始されたことにより、待望の全線高架化が完了し、交通のボ トルネックとなっていた12カ所の踏切が除却された。一方、土木工事は、施工 延長が約4.9?と長いため、施工方法や工期の短縮などを考慮し、全体を12工 区に分割して推進。精鋭各社が、高度な技術力を駆使しながら安全第一に工程 の進捗を図り、多くの関係者ならびに沿線住民から寄せられていた期待と信頼 に応える高精度施工を達成した。
【写真上:南田辺駅から鶴ケ丘駅間南長池部】
【写真下:長居駅付近】
通勤・通学やショッピング・レジャーなどの日常生活をワイドにサポートする市民の足として幅広く利用され ている鉄道は、人や物を大量に、しかも高速で輸送できるばかりでなく、環境・エネルギーの観点からも高い 社会的評価を得ている。しかし、市街地にある平面踏切道が、自動車をはじめとする都市交通の円滑な流れを 妨げるとともに、地域を分断するなど、都市機能に大きなひずみをもたらしており、鉄道の運転保安上にも影 響をおよぼしている。このため、交通のボトルネックを解消するばかりでなく、過密化する一方の市街地を効 率的かつ立体的に使えるというメリットを有する連続立体交差事業が1969年に建設省と運輸省が締結したいわ ゆる「建運協定」を契機として活発に展開されるようになり、これまでに大きな成果を残してきた。また、国 土交通省においては、交通渋滞をはじめ、都市活動に著しい支障を来しているボトルネック踏切など、踏切道 における事故防止および交通の円滑化を図るため、踏切道改良促進法の改正により創設した新たな制度等を確 実に実施し、踏切道の立体交差化、構造改良ならびに踏切保安設備の整備促進に努めており、全国に約1,000 か所あるといわれているピーク時遮断時間40分以上あるいは踏切交通遮断量5万台時/日以上のボトルネック 踏切を2010年度までにおよそ半分に減らすことを目指している。 一方、大阪市では、21世紀にふさわしい魅力ある国際都市の実現に向けて都市基盤整備を推進。なかでも、道 路と鉄道との立体交差事業は、まちづくりに大きな役割を果たす都市計画事業として鉄道各社と協力しながら 一体となって取り組んでいる。こうした背景の下、1981年7月の都市計画決定、1983年3月の事業認可、1984 年3月の協定締結などを経て1999年度から高架化工事に着手したJR阪和線連続立体交差事業の全線高架化が 完了。2004年10月に上り線(天王寺方面行き)の高架切り換えが完了したのに引き続いて、5月21日から下 り線(和歌山方面行き)の供用を開始したもので、12か所の踏切が除却された。 大阪市南部を縦断しているJR阪和線と交差する幹線道路は、木津川平野線(松虫通)、柴谷平野線(南港 通)、天王寺吾彦線(あびこ筋)、敷津長吉線(長居公園通)、大和川北岸線の5本があり、踏切による交通 渋滞や事故が発生するなど、地域の社会生活に大きな影響をもたらしていた。 このため、大阪市ならびにJ R西日本では、長年の懸案となっていた踏切除却を目的とするJR阪和線連続立体交差事業を阿倍野区文の里 四丁目付近から住吉区杉本三丁目付近間(約4.9?)において実施することとし、沿線住民の協力を得ながら 工事を推進。また、南田辺駅、鶴ヶ丘駅、長居駅、我孫子町駅についても人にやさしい快適な駅舎として生ま れ変わり、利便性が一段と向上した。なお、ホームは、南田辺駅、長居駅、我孫子町駅の三駅が相対式、鶴ヶ 丘駅が島式で、各ホームにエレベーター一基、エスカレーター二基を設置している。 《精鋭施工陣が高度な技術力駆使》 踏切による交通渋滞や踏切事故の解消など、大きなメリットをもたらす全線高架化。1999年度から着手したそ の工事は、文の里工区(施工=西松建設)、桃ヶ池工区(同=鹿島)、南田辺駅部(同=奥村組)、長池北工 区(同=淺沼組)、長池南工区(同=清水建設)、鶴ヶ丘駅部(同=大林組)、長居北工区(同=佐藤工 業)、長居北工区あびこ筋部(同=松尾橋梁)、長居駅部(同=大鉄工業)、長居南工区(同=錢高組)、我 孫子町駅部(同=鴻池組)、山之内工区(同=前田建設工業)の12工区に分割し、精鋭各社が環境保全に努め ながら安全第一に施工した。精鋭施工陣の高度な技術力が息づく中間部の高架形式は、最も経済的で、一般的 とされるRCコンクリートビームスラブ式ラーメン高架橋(線路方向スパンL=10m)を採用しているが、公 園部分などについては、構造性、経済性を考慮してPC桁を連続架設した桁式高架橋としてL=20mを採用。 また、構造物配置は、4から5径間高架橋を基本とし、高架橋スパン10m前後のスラブ桁で接続している。な お、線路直角方向の形式は、別線一括施工区間は2線2柱式を基本としており、分割施工区間については2線 3柱式を併用している。 一方、駅部高架橋のうち、鶴ヶ丘駅の高架形式には中間部と同様にRCコンクリートビームスラブ式ラーメン 高架橋を採用。構造物の配置については、駅施設等の高架下利用を考慮し、線路方向はL=10m、線路直角方 向は四線四柱式を採用している。これに対し、南田辺・長居・我孫子町の3駅については、階段等の幅員を確 保するため、中央部2径間ビームスラブ式ラーメン高架橋形式とするとともに、その両側を桁式構造として階 段、エスカレーターなどを設置している。上部工の基本構造としては、騒音、振動などを考慮して、コンクリ ート構造としており、桁の種別については、桁長がL=13mまではコンクリート単純スラブ桁、L=20mまでは 単T桁とし、それ以上のものにはPC桁を使用した。 《安全を最優先・沿線の環境保全にも万全の対応》 また、都市計画道路天王寺吾彦線(あびこ筋)が交差する長居北2架道橋には、施工性、経済性を踏まえ、3 径間連続非合成箱桁(複線一ボックス桁)を採用。施工に当たっては、工事ヤードの確保が困難であるほか、 交通量の多い道路で、昼夜に亘る交通規制を伴う架設工事が困難であることから、一晩の通行止めで架設でき る「トランスポーター一括架設工法」を採用。鋼鉄道橋としては、全国で2例目となる注目工事も無事に完了 した。 こうした特徴のほか、東隣に営業線が近接するという条件に加えて、幹線道路、市街地道路、歩道、学校、公 園、住宅などに囲まれた狭隘なスペースでの作業を強いられるという困難が伴ったものの、施工各社では、第 3者災害ならびに墜落・飛来落下災害の防止に細心の注意を払って?安全運転?を励行。また、コンクリート 構造物の品新管理についても、JR西日本の品質管理マニュアル土木編や品質管理パトロールなどに基づきな がら、万全の対応を図り、高品質の確保、高精度施工の達成に向けて邁進した。 精鋭施工陣のこうした真摯 な取り組みによって、待望の全線高架化が実現したJR阪和線連続立体交差事業。阿倍野区文の里四丁目付近 から住吉区杉本3丁目付近間の約4.9?には、?青信号?を見つめながら、長年に亘って地道な努力を積み重 ねた精鋭各社の高度な技術力が息づいている。