藤田郁夫・近畿地方整備局副局長に聞く 港湾や空港は、国際インフラとして産業・経済活動には不可欠なものであり、社会状 況にかかわらず整備における後退は許されないものとなっている。特に港湾において は、アジア諸港の台頭により激しい国際競争力にされされ、その強化が急務なものと なっている。近畿における港湾空港行政を推進する国土交通省近畿地方整備局港湾空 港部では、スーパー中枢港湾の神戸・大阪両港を中心に各種の施策を打ち出しなが ら、港湾機能の拡充に努めている。その港湾空港部を統轄する藤田郁夫福局長に、事 業の現況や来年の見通しについて聞いてみた。(編集部・渡辺真也)
【写真:藤田郁夫副局長】
《国際競争力と防災機能強化》 ――公共事業取り巻く環境は依然として厳しい状況にありますが、まずは来年度事業の見通しについてお聞 きしたい。 藤田副局長 2006年度の予算は国費ベースで約5.35%、事業費ベースでは約7.25%とそれぞれ減少となりま すが、管内の予算規模は今年度とあまり変わらず、ほぼ横這いになると考えております。事業の柱として は、国際物流の効率化を通じた国際競争力の強化、東南海・南海地震へ対応する地域防災力の強化の2点で す。 ――競争力と防災機能の強化ですね。 藤田副局長 競争力の強化につきましてはハード・ソフトの両面として、ソフトでは昨年6月、全国に先駆 けて国際物流戦略チームを設置し、会長には関西経済連合会の秋山喜久雄会長にお願いしました。ハード面 ではスーパー中枢港湾の神戸・大阪両港を阪神港として機能強化を進めていきます。 ――国際競争ではアジア諸港との競合になりますね。 藤田副局長 ええ、さらに昨年9月には「大阪湾港湾の基本構想」を当局で策定しました。関西シリコンベ イ構想と名付けておりますが、物流の効率化と臨海部への産業立地が柱になります。ここでは大阪湾諸港の 能力や配置をどうするかを考え、これを指針として既に神戸、尼崎西宮芦屋、堺泉北、阪南の各港で港湾計 画の改定を行っており、大阪港でも2006年度中の改定を目指して作業が進められております。 ―大阪湾あげての取り組みですね。 藤田副局長 また、日本政策投資銀行が工場立地が関西に戻ってきたとのレポートを発表しました。この中 でいろんな分析がなされておりますが、インフラ整備では関西国際空港とスーパー中枢港湾を大きな要因に 上げています。臨海部に産業立地が進めば港湾需要が伸びる、港湾を機能強化すれば産業立地が促進される ーと、産業技術の立地と国際競争力の強化、これを両輪として好循環につなげていきたいと思っておりま す。 ――空港整備については。 藤田副局長 神戸空港が開港し、関空2期の滑走路と伊丹空港を併せ、いよいよ関西3空港の時代を迎えま す。当局の管轄である伊丹につきましては、国内基幹空港としての位置づけは変わらず、今後も機能の維 持・強化に努めてまいります。 《スーパー中枢港湾、地震・津波対策など》 ――もうひとつの柱である防災関連は。 藤田副局長 これもハードとソフト両面からの備えが必要となります。地震対策のハード面では、地震時で の物流を確保するため、スーパー中枢港湾である大阪港夢洲のC−12と神戸港ポートアイランドPC−18で 耐震強化岸壁を整備します。また、緊急物資等の海上支援に対応する岸壁を姫路と和歌山県の文里、新宮で 整備し地域の拠点とします。 ――津波対策では。 藤田副局長 護岸などの海岸防御施設の強度を診断するチャート式の簡易診断システムを作成しており、港 湾管理者や所有者に対して診断を要請しております。耐震点検については2004年度で約20%程度だったもの が、今年度末には約6割程度まで実施されております。 ――ソフト面ではどのような取り組みを。 藤田副局長 今年度に臨海部広域津波対策ワーキンググループを設置致しました。国と地方の関係機関が連 携して行動計画などを策定するもので、学識経験者をアドバイザーに迎え議論を進めています。 ――従来からの施策では高潮対策があります。 藤田副局長 海抜ゼロメートル地帯に対する防御です。日本では東京湾と伊勢湾、大阪湾の各域にもゼロメ ートル地帯が多く点在しています。これについては、国土交通省として検討委員会をつくり、今年1月には 提言を頂きました。この提言を基に各種対策を進めていきますが、2006年度からは津波と高潮を含めた緊急 事業を実施することになりました。 《来年度事業・高規格岸壁着工へ》 ――さて、来年度事業についてはどのように。 藤田副局長 新規と継続事業がありますが、新規事業では神戸港のPC−18での高規格コンテナターミナル 着工が認められました。スーパー中枢港湾の骨格を成すもので、大きな目玉となります。継続事業では大阪 港の夢洲トンネルがあります。今年度は100億円超の予算規模でしたが、来年度もほぼ同程度になるかと思っ ております。 ――夢洲トンネルもスーパー中枢港湾の主要機能です。 藤田副局長 さらに夢洲C−12でも高規格コンテナターミナルを引き続き実施します。日本海側では舞鶴港 でのトンネルと岸壁築造を継続します。トンネルは貫通しており、残工事が中心になります。和歌山では下 津港で本港防波堤整備を着実に進めてまいります。空港では伊丹で誘導路とエプロンの改良工事が主なもの になります。 ――スーパー中枢港湾への取り組みは。 藤田副局長 補助事業になりますが、コンテナ貨物の増大に対応するためポートアイランドPC−18から16 の背後地に共同デポを建設します。また、メガターミナルとして民間オペレーターの神戸メガコンテナター ミナル社へ支援措置を、大阪港では、24時間対応の動植物検疫施設整備を支援します。 ――やはり神戸、大阪といった大都市港湾へ投資が集中する。 藤田副局長 その傾向は否めません。先程言いましたように、臨海部に産業が戻ってきた理由に低コストで の大量輸送が可能という海上輸送の利便性が見直されたことがあります。そうなると港湾の整備や機能強化 などは必要ですね。東京と比べて関西は産業立地と輸出額の相関関係が強いですから。 ――いずれにしろ継続事業が中心になりそうですね。 藤田副局長 そうですね。事業の選択と集中になります。ただ、スーパー中枢港湾はじめ、国際競争力強化 についても動き出し始めておりますし、我々も働きかけてきたところですので少しでも認められればとは期 待しています。 《入札契約制度総合評価方式に比重》 ――ところで、いわゆる品確法の施行など、入札契約制度の改革が実施されておりますが、これへの対応 は。 藤田副局長 一般競争入札は引き続き拡大の方向にあります。2億円以上の工事については全て一般競争入 札を実施し、2億円未満の小さな工事についても積極的に取り入れていきます。さらに小さな工事について は、これまでになかった要件を満たせば参加可能となる工事希望型競争入札の試行導入も考えております。 ――なるほど。 藤田副局長 総合評価方式については、簡易型と標準型、高度技術提案型の3種類を使い分けていくことに なりますが、昨年の10月14日以降の案件につきましては適用しており、その殆どは簡易型でした。総合評価 方式による2006年度の発注については現在、検討中ですが、その占める割合は相当高くなると思いますね。 ――不良・不適格業者の排除では。 藤田副局長 入札契約制度の改革は、不良・不適格業者を排除するためでもあります。参加要件などで、今 まで以上にそれらを排除できるような設定をしていかなければとは思います。これはダンピング防止でも同 じです。 ――ダンピング防止も重要な課題です。 藤田副局長 確かに、直轄事業でも予定価格を下回る入札が出始めていることは聞いておりますが、一概に どうこうとは言えませんね。1つには調査基準価格という表現がよくないのではと。基準価格が工事原価だ と考える人もいるようで、下回れば赤字で、少しでも上回れば利益が上がるのではーと捉える向きもあるよ うです。 ――それら不良・不適格業者の排除、ダンピングを防ぐ上でも総合評価方式に期待がかかります。今後とも 良質な社会資本整備に向けてご尽力下さい。本日はありがとうございました。