
水本豊弘・元大林組JV所長が講演 大阪建築士事務所協 (社)大阪建築士事務所協会(山口祥悟会長)主催の「2006年新春講演会」が17日、大 阪市内のホテルで開催された。参加した会員各社の代表ら約110名が水本豊弘・元 (株)大林組京都迎賓館JV工事事務所統括所長による「京都迎賓館平成の名建築を目 指して 伝統技術桂離宮から京都迎賓館」をテーマとする話に興味深く聞き入った。 講演会では、関西電力美浜原子力発電所1号機をはじめ、桂離宮御殿整備工事所長、彦 根城博物館建設工事所長、ユニバーサルスタジオジャパン建設工事統括所長など、多く の現場での経験を持つ水本氏が自身の職歴を紹介したあと、スクリーン映像を交えなが ら京都迎賓館建設工事について、詳しく話を進めた。
《伝統技術継承には次なる工事を》 京都迎賓館は、1994年閣議決定後、2002年3月に起工式を行い、05年3月に竣工。京都御苑内に位置し、RC 1部SRC・S造地下1階地上2階建て、敷地面積約2万?、延べ面積約1万6,000?の規模を有する。水本 氏は「工事には京都府、京都市からも大きな期待を受けたが、管轄が環境省や宮内庁、外務省、さらには京都 府警や皇宮警察、防衛庁と多岐に渡り、これら省庁との連携・調整が大変だった」と振り返るとともに、「工 事に興味を持つ市民が多く、注目を集めていたため、工事情報センターを開設して情報公開に努めた」と紹介 した。 水本氏は工事に着手するにあたり、「頻繁に発注されるものではなく、この工事に携われるのは千載一遇のチ ャンスと考えた。チャンスを活かし、“平成の名建築”を目指すために平行・直角・水平に“直線”を加えた 現場管理のルールを全員でしっかりとつくり上げたことが品質保証にもつながり、成果をあげた」とポイント を挙げ、工事で多く用いられる京都の伝統技術について、JVスタッフが勉強会を開いていたことも話した。 また「工事の大きなテーマは伝統技術と現代技術の融合と、グレードの高い仕上げを行うことで得られる躯体 の長寿命化だった。屋根はニッケルグラッドステンレス葺きとし、玄関の壁には樹脂を投入させるなどして耐 久性を高めた」など、テーマの実現へ向けた具体的な取組状況について実際の工事の様子を回想しながら細か く解説した。 原則としてすべての材料を国内で調達する―とのコンセプトから、ケヤキや杉、ヒノキなどの造作材を全国で 手配し、時には直接産地に赴いて選別したこともあり「大きく、長く切断せねばならず、木目や色合いをうま く合わせるのには苦労した」とし、漆喰壁には白さをおさえるため消石灰と貝灰を配合し落ち着いた色合いを 実現させたが、照明が天井からではなく、床の行灯からのほのかなもので、左官の高い精度と完成度が求めら れ、何度もやり直しを命じたという。「養生に1年以上を要する壁があるために木工事を先行させなければな らず、さらに庭園工事も並行して進めた。苦心して工程・工期を調整した」とも。 これらさまざまな経験を語り、水本氏は最後に「現代技術と伝統技術が出会い、新しいかたちを創り出すこと に成功したと思っているが、伝統技術を次の時代に継承するためには“大きな核”となる次なる工事が必要」 と提言し、講演を締めくくった。