中野岳之(株)ヤマシタ社長に聞く 石綿問題の現状と課題 石綿(アスベスト)による肺がんや中皮腫等の重篤な健康被害の発生は、各メディアで も連日のように取り上げられるなど、今や社会的にも大きな問題となっている。石綿含 有製品のうち建材、摩擦材及び接着剤についてはすでに製造、使用等が禁止されている が、昨年7月には関係労働者の健康被害防止対策の充実を図るため、石綿障害予防規則 が施行された。 石綿は1970年から1990年にかけて大量に輸入され、その多くは建材として建築物に使用 されたが、今後これらの建築物の老朽化に伴う解体工事の増加が予想される中で、解体 工事に従事する労働者の石綿による健康被害の発生とともに、工事の際の周辺への影響 などが懸念されている。
そこで、解体工事業の大手として近畿建設躯体工業協同組合の解体部会の部会長でもある(株)ヤマシタの中 野岳之社長に、石綿問題の現状や課題、今後の取り組みなどについて聞いてみた。(編集部・曽碩和彦) 《時間もコストもかかる内装材の解体》 ――まず一般的な建築物の解体工事の作業手順からお聞かせ下さい。
【中野社長】 最初にインフラの切断や共通仮設工事を行い、外部足場を架設した後、残留品搬出やフロン ガス抜き取り、石綿除去、PCB集積などに続いて内装材を解体し搬出します。そして、地上躯体を解体しな がら外部足場を解体し、産廃の分別収集・運搬・処分、スクラップ搬出、さらに基礎躯体の解体、整地を行 い、最後に仮囲いを解体するといった手順で作業を進めます。 ――これまでの解体工事における留意点は。
【中野社長】 騒音や振動など近隣への配慮、第三者災害の防止、作業員の安全確保、PCBの確認、吹付 け石綿の確認及び除去作業、危険物や有害物の確認などです。石綿は適切に処理すれば何ら問題はないという ことも付け加えておきます。 ――石綿問題が注目されるようになって変わったことはありますか。
【中野社長】 発注者の意識が敏感になったことや、近隣住民の意識・関心度が高くなったことに加え、建 物利用者がアスベストの有無に高い関心を持つようになりました。それと我々自身も、解体現場に石綿を含ま ない工事はないという認識を持つようになったことですね。実際、内装材の解体には時間もコストもかかるよ うになりました。 ――今年7月1日から石綿障害予防規則が施行され、解体工事の対策として事前調査や作業計画、特別教育 などが盛り込まれていますが。
【中野社長】 この規則の施行によって発注者、元請への要求事項が高くなりました。作業計画では、レベ ル1の吹付け石綿、レベル2の配管廻りの保温材、レベル3の石綿含有建材の区分が決定され、施工手順が確 立されたことで、7月より以前はレベル1、2のみに対応していましたが、最近ではレベル3も労働基準監督 署へ相談し指導を受け、計画書を作成して提出しています。事前調査についても吹付け石綿はもとより、石綿 含有建材のサンプリングまで行うように変わってきました。また、特別教育もすでに全作業員に実施するとと もに、現場責任者(職長)に特定化学物質取扱作業主任者の資格を随時取得させています。社内職員に対して も、専門業者の講師に依頼し勉強会を行っています。アスベスト用の健康診断も半年に1度実施しなければな らなくなります。 (2)につづく