
健全な建設業界の発展へ 藤本貴也・近畿地方整備局長に聞く ▼日本の公共投資 ――なるほど。銀座通りの明るさも社会実験で蘇ったというわけですね。し かし、建設業界にとっての気がかりは、やはり公共事業費の減少だと思いま す。
【藤本局長】 平成18年度予算は、相変わらずマイナス3.0%のシーリングにセットされ、最終的にはさら に引き下げられました。現在、アメリカなどがインフラ整備に力を入れている中で、抜本的な競争力を高める ためには、公共投資についてきちんと議論しなければ欧米に勝てないと思っています。アメリカのルイジアナ 州で発生したハリケーン「カトリーナ」の大水害をみても、財産を保全するためには、安全対策がいかに重要 であるかが分かっていただけたと思います。安全対策を怠ると我々の子供の時代におけるリスクが大きくなる と思います。アメリカは、昭和40年代に「荒廃するアメリカ」と言われました。私がちょうど建設省に入った 頃で、それは非常にひどいものでした。橋やケーブルが壊れたりしていました。アメリカはこれを機に道路投 資を増やしています。昨年決まった6か年計画では31%もアップしました。 ――中国の高速道路建設もすごいらしいですね。
【藤本局長】 いま年間5,000?の高速道路を建設しているわけですから。私が道路局国道課長であった平 成11年ごろ、当時の大石道路局長と共に中国へ道路の視察に行った時に年間1,000〜3,000?の道路を建設して おりびっくりしたものです。2008年の北京オリンピックを目標に環状道路も完成させようとしているんです ね。この中国の勢いを日本にも紹介しました。しかし、その後日本の道路建設は下降線を辿って、完成した高 速道路はまだやっと約8,000?。中国の国土の広さもありますが、日本と比べて少し桁が違います。 ――国の予算編成で削りやすいのは公共事業費でしょう。
【藤本局長】 いますぐ必要な社会福祉費や医療費などに比べて、道路などの公共事業は、10年後、20年後 と長いスパンでみられますから、どうしても後回しになりがちです。しかし、日本は脆弱な国土のため災害が 多い。この30年間に世界で発生した災害のうち15%(金額ベース)は日本です。ドイツやイギリスは1〜2% にすぎません。いかに災害による日本のハンディキャップが大きいかということですね。ですから安全に対す る公共投資は、ヨーロッパの15倍投資しないと安全確保ができないわけです。現在、GDPに対する公共投資 はフランスが約3.0%、イギリスが約1.8%です。日本の公共投資は約3.6%ですが、このうち0.9%は防災投資 ですので、ヨーロッパと比較しますと、実際は約2.7%しか投資していないことになります。さらに地形・地 質や地震などの条件が厳しいことによるコスト増を考えると、実質的に日本の公共投資はヨーロッパの低い方 に入ると考えていいと思います。こうした状況をもっと国民の皆さんにも説明した上で、社会資本の整備につ いて今後どうすべきかについて議論していただくことが重要だと思っています。 ▼景気動向 ――災害対策費を除かないと、正しい公共投資の評価にはならないわけですね。欧米に比べて日本は、決し て高くないことがよく分かりました。最後に今年の景気動向については、どうみておられますか。
【藤本局長】 経済に関するいろんなDIの数値をみても明るい兆しが見え始め、関西経済も少し上向いて いると思います。昨年暮れ、関西経済連合会のある部会に出席した時も、部会長が「少しは元気になってきま した」と挨拶しておられました。景気の指標を見ても関西は明らかに全国平均の上をいっていますから、今年 こそは飛躍の年になるものと期待しています。いつまでも暗いと思っていれば、東京との差はどんどん広がっ ていきます。「関西は元気だ」というところを大いに全国に発信していかなければいけないと思っています。 ――そうですね。今年は本当に明るい年になってほしいものです。きょうは大変お忙しい中、貴重なお話を お聞かせいただきありがとうございました。局長のご活躍を期待しております。(水谷次郎)