
健全な建設業界の発展へ 藤本貴也・近畿地方整備局長に聞く 昨年は橋梁工事の大規模な談合事件、アスベスト(石綿)対策、そして耐震強 度偽装問題と、社会を震撼させる事件が相次いで発覚し、建設業界にも激震が 走った。特に耐震強度偽装問題は、根底から国民の信頼を裏切る事件として大 きな社会問題となり、その解明や対策が急がれている。
そこで新春に当たって、国土交通省近畿地方整備局の藤本貴也局長にこの偽装問題をはじめ、今年から本格運 用が期待されている「公共工事の品質確保の促進に関する法律」(公共工事品確法)、さらに御堂筋の再生や 日本の公共投資などについて聞いてみた。 ▼耐震強度偽装問題 ――昨年発覚した耐震強度偽装問題で、いま社会が大きく揺れています。政府も昨年12月に構造計算書偽装 問題への当面の対応と、偽装された分譲マンション居住者に対する公的支援策をまとめられました。姉歯元建 築士が係ったとされるマンションやホテルは近畿圏でも数件見つかって、その対応が急がれています。まずは じめに近畿地方整備局としての方針や取り組みについてお聞かせ下さい。
【藤本局長】 私もこの構造計算書偽装事件は、深刻な事態であると受け止めています。国土交通省は、昨 年12月8日から国指定の民間指定確認検査機関への立ち入り検査を実施しました。その検査事項は一般的な建 築確認検査業務の実施状況、例えば帳簿の整備や書類の保管など、また、構造計算書や構造設計図書などの審 査体制と審査方法などについて調査したもので、検査結果に従って適切に対応していきたいと考えています。 ――指定確認検査機関は、全国にどのくらいあるのですか。
【藤本局長】 国が指定している機関は、本省と各地方整備局がそれぞれ指定している機関を合わせて51機 関、また都道府県知事が指定しているものが73機関あり、この3つの分類で計124機関となっています。近畿 ブロックには、近畿地方整備局が指定した機関が19機関、本省の指定機関もいくつかあります。それらも含め て政府、国土交通本省及び関係各地方整備局と連携を密に図りしっかり対応していくのが、まず当面の仕事だ と思っています。 そして、一番の問題は偽装が明らかになった一般市民のマンション対策であり、政府の方針でも、危険なマン ションからの退去勧告や退去後の生活についてどう支援していけばいいのか、こういった問題に焦点が当てら れています。私たちも一般市民からマンションの耐震性についての不安への相談対応など現場レベルで本省の 方針に従って進めていかなければならないと思っています。また、本省で新たな制度を作っていく部分も出て くると思います。私たちがやらなければいけないのは、指定確認検査機関における確認検査業務の適性化と、 特定行政庁と連携をとりながら偽装問題に関係する個別物件の調査、一般的な住宅の耐震診断のための支援制 度の普及・技術的助言の3点です。 ▼公共工事品確法 ――いま求められているのは構造物の品質だと思います。昨年4月1日には、公共工事品確法が施行されま した。そういった意味で、品確法に寄せる期待も大きいかと思います。
【藤本局長】 品確法は国だけでなく府県や市町村など公共団体を含めて、発注者が技術力を身につけて 「技術と経営に優れた会社、安心して仕事を任せられる会社」である優良な企業を選ぶようにしないと建設業 界全体が良い方向へ向かわないということですね。「安ければいい」というこれまでの価格偏重を改め、品質 も合わせて受注する会社を選んでいこうということを目的にするものです。 ――市町村の取り組みが課題だと言われていますが…。
【藤本局長】 いま、入札監視委員会が設置されていない市町村、また、工事費の内訳書を提出させていな い市町村に対しては、「ぜひきちんとやって下さい」と各府県を通じてお願いしています。また、総合評価落 札方式を採用するためには優秀な技術者が必要になります。そのための体制もきちんと構築していかなければ なりません。さらに会社の工事実績や技術者の実績も分かるようにしておく必要があります。やはり、市町村 にも品確法に対するしっかりとした認識をもっていただかないと業界全体がよくならない、そこが大きなポイ ントだと思います。(水谷次郎) (ふじもと・たかや)昭和47年4月東京大学工学部土木工学科卒、同年5月建設省(現国土交通省)入省。昭 和59年7月大臣官房政策課計画官、60年2月道路局企画課長補佐、62年1月大臣官房技術調査官、平成元年4 月中部地方建設局静岡国道事務所長、3年4月道路局有料道路課建設専門官、5年4月同企画課道路事業調整 官、7年6月同道路経済調査室長、10年1月関東地方建設局企画部長、11年9月道路局国道課長、13年7月日 本道路公団本社(現東日本高速道路(株))調査役、14年7月総合政策局技術調査官、16年7月近畿地方整備 局長。奈良県出身、56歳。