個人の自立、歩ける町を 大阪狭山市のシンボルである狭山池で、桜の植樹・育成により良好な水辺環 境整備を図るため、大阪府や大阪狭山市らで構成する「狭山池さくら満開委 員会」の主催による「第六回建築家安藤忠雄講演会In狭山池」が1月31 日、府立狭山池博物館で開催された。植樹を支援する安藤氏が2004年から毎 年、実施しているもので、今回は‘人を育てるー不況を乗り越える力’をテ ーマに行い、市民ら約300人が参加した。 講演で安藤氏は、自ら手掛けた工事を通して得た体験やまちづくり、都市の 在り方の考え方などを踏まえながら、人の育て方を語った。 安藤氏は、日本が世界に誇れるものとして「長寿命化」を挙げ、それを支え ているのは女性であり、「女性は好奇心が旺盛で、それが長生きの秘訣だ」 とし、その好奇心を満たすものが文化であり、その文化を創るものは「責任 ある個人と地域社会」だとした。責任ある個人となるためには「個人の自 立」が重要で、特に現在は子供に対して過保護になり過ぎており、「子供が 自立するためには親が子供から離れること」だと指摘、その上で「家族がと もに生きる地域社会づくりがある」とした。
また安藤氏は、海外で手掛けた自らのプロジェクトを紹介しながら、「日本の建設技術は世界でも最高とい える」とし、その秘訣は、「チームにある」とした。プロジェクトチームや設計事務所、建設企業が「同じ 考え、価値観を共有する」ことで連携が取れ、言わば「家族」となることで作業がスムーズ行くとする。さ らに、代表作でもある「住吉の長屋」などを例に挙げながら、「豊かさは自分の中で工夫するもので、分相 応の幸せを考えなければならない」と語り、自宅になくても少し歩けば「事足りる」ような地域、「歩ける 町」があれば十分であり、「その点で狭山は良い立地を備えている」と述べた。 会場となった狭山池博物も安藤氏が設計を担当。展示の目玉である狭山池の旧堤は、日本の成り立ち、国土 を作るものであり、「狭山池があるからこその展示」と、自然遺産の価値を示唆。また、桜の植樹やバタフ ライガーデン「蝶の森」づくりなどの活動に対して、「市民の力、皆でやったもので全国でも珍しい取り組 みで民意の高さを感じる」と評価した。これらを初めとする緑化運動の取り組みに対し安藤氏は、「新たに 作るより、既にあるものを育てること」との考え方を披露し、「皆が一生懸命になることで、新しい日本が できるのでは」と呼びかけた。 日本最古のダムである狭山池は、「平成の大改修」により周回歩道が整備されるとともに、発掘された土木 遺産を継承するため狭山池博物館が建設された。それらを契機に住民と行政の協働による狭山池さくら満開 委員会を組織し、狭山池に桜を植え、育て、桜の咲き誇るより良い水辺環境を創出し、桜の名所として全国 に発信するための取り組みを進めている。 委員会は、狭山池まつり実行委員会と狭山池土地改良区、大阪狭山市、大阪府で構成。今回の講演会には、 さくら満開委員会の武田博充会長、吉田友好・大阪狭山市長、小河保之・大阪府副知事のほか、来賓として 近畿地方整備局の木下誠也局長、塚田幸広・企画部長らも参加した。