老化したインフラ状況の把握が急務 (社)土木学会(石井弓夫会長)が関係諸官庁や建設業諸団体の後援を得て1987年11 月18日に「土木の日」、および「くらしと土木の週間」(18日から24日)に制定して 以来、今年で21回目を迎えた。今年も全国各地で、市民に土木への理解を深めても らい、社会資本整備の大切さをアピールするために市民現場見学会やシンポジウムな ど多彩なイベントが展開されている。この「土木の日」に寄せて、石井会長は報道関 係者の共同インタビューで、いま土木学会が取り組んでいる活動として、「インフラ の国税調査・健康診断」を挙げ、老朽化したインフラ状況を早く把握しなければいけ ないと強調した。さらに優れた日本の土木技術をアジアにも伝承し貢献していくこ と、7年後に土木学会が100周年を迎えるに当たって準備活動を開始し、会長提言特別 委員会の設置を検討していることを明らかにした。
インフラの国勢調査・健康診 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 1987年に創設された「土木の日」も今年で21回目を迎えました。関係各位の絶大なご支援・ご協力に対し、 改めて感謝申し上げます。私が土木学会の会長に就任して5カ月が経ちました。私は、いま「インフラの国 勢調査・健康診断」「アジアへの貢献」「土木学会100周年を目指して」「沈黙は金にあらず」の四つの方針 を掲げて土木学会を運営しています。 まず、「インフラの国勢調査・健康診断」を活動方針に挙げたのは、私たちは戦争の廃墟から立ち直って高 度経済成長を成し遂げましたが、高度経済成長が始まってからすでに50年以上経っており、その間のインフ ラの老朽化がおそらく相当進んでいるのではないかと考えたからです。 一方でその状況というのは、正しく国民や行政機関に詳しく伝えられているかと言えば、そうとは言えかね る状況にあります。ちょうど私たちがこの国勢調査・健康診断を示してまもないうちに、アメリカのミネソ タ州では落橋事故が起こって橋梁の問題が問われる大事件がありました。他人事ではありません。私たちの 生活においても、早くこれに対する状況を把握しなければいけないと考えています。インフラの国勢調査・ 健康診断は、土木学会という学術的かつ独立した組織があります。もちろん土木学会では、以前からこうし た活動を進めてきましたが、今後はさらに強化していかなければならないと思っています。 具体的には、道路関係、河川関係、港湾・交通関係に重点を置いています。例えば道路関係では、道路や橋 梁などの構造物だけでなく、その運用システム、いわゆるソフトを含めた診断が必要です。河川であれば、 当然、治水対策で洪水警報や避難システムなどの問題も出てきます。都市、環境、情報、エネルギーといっ たインフラにも広げていきたいと思っています。 アジアへの貢献 ~~~~~~~~~~~~~~ 日本は130年前の明治維新の近代化、高度経済成長に成功しました。その間、土木学会の技術者が非常に大き な貢献をしたと自負しております。一方、近隣のアジアをみますと、多くの人々がまだ貧困の危機にあえ ぎ、近代化や経済成長に成功していない状況にあります。これに対して私たちの多くの土木技術者が、少し でも自分たちが成功した技術をアジアで継承していくことによってアジアの発展に貢献できるのではないか と考えております。 私たちもアジアに住んでいて、アジアの自然、社会、文化についてもっと理解を深めていかなければなりま せん。そのためには、各国で発生した大規模な地震や津波など自然災害に対して調査団を派遣すること。す でに土木学会として実施していることですが、これをさらに強化していきたいと思います。また、各国に土 木学会の分会を設立し、技術者資格認定制度を各国で活用していただくこと、さらにはアジアの自然、社 会、文化を反映したような共通の技術基準を策定していくことーこうした活動が必要ではないかと考えてい ます。 土木学会100周年を目指して ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 土木学会は1914年(大正3年)に設立されました。7年後には100周年を迎えます。それに向けて「土木学会 がこれまでどのような活動をしてきたのか」、もう一度調べ直し、そして「次の100年に何をしていくべき か」、提言していこうと考えています。 初代会長の古市公威会長は就任挨拶の講演の中で、「土木技術というのは、すべての技術を理解したもので なければならない。すべてを包含したものでなければいけない。あるものに偏ったものになってはいけな い」と、社会的な存在を極めて強く主張されています。私たちもその過去を追ってきたつもりではあります が、いま改めてこの言葉に主眼を置いて100周年に向けた準備活動を開始したところです。来年度以降 は、会長提言の特別委員会を設置し、検討体制を整えていきたいと考えています。 沈黙は金にあらず ~~~~~~~~~~~~~~~~ 土木技術者は、かつては「縁の下の力持ち」というのが美徳とされてきました。しかし、私は間違っている と思います。「自分たちがいま何を考えているのか」、「何をしているのか」、「これから何をしようとし ているのか」、どんどん社会的に発言していかなければいけない、そういう時代になったということであり ます。土木技術者が発言をしなかったために誤解され、また世の中において必ずしも正統な地位を与えられ てこなかったように思われます。 こうしたことから土木学会では、昨年から始めたマスメディアとの懇談会をさらに強化し、毎月実施するこ とにしています。また、今春から論説委員会を設けました。土木技術者が発言した内容を土木学会誌に毎月 掲載しており、いろんな意見を出しています。これらは土木技術者の発言の一例ですが、今後はますます拡 充していくつもりです。したがって、インフラの国勢調査・健康診断の結果についても1年かけて出すわけ ですが、その結果についてもアメリカの土木学会誌に発表するなど、日本のインフラの状況について発言を 強めていきたいと考えています。 石井弓夫 (いしい・ゆみお)1959年3月東京大学工学部土木工学科卒。同年4月(財)建設技術研究所入所(19633年 (株)建設技術研究所に転属)、1995年3月代表取締役社長、2003年3月代表取締役会長。学会歴は国際委 員会委員長、コンサルタント委員会委員長、建設マネジメント委員会副委員長、国際貢献賞選考委員会委員 長の要職を歴任。また、(社)建設コンサルタンツ協会の会長を努めたほか、現在も内閣府日本学術会議連 携会員、世界工学団体連盟(WFEO)会長顧問など兼任。2003年7月に国土交通大臣表彰を受賞。71歳。