各職種とも人材の育成が急務 専門工事業は今、仕事量が増えている中で、深刻な技能工不足に直面してい る。職人の高齢化が進む一方で、低賃金など待遇面の悪さが離職者を増やし、 新規入職者も少ないからだ。
こうしたなか、国土交通省は昨年12月4日付で、総合政策局長名による「下 請契約における代金支払の適正化等」の指導と徹底を求めた文書を建設業者団 体の各代表宛に通達した。 この通達は、最近の厳しい建設産業の経営環境の中で、とりわけ元請下請取引 の適正化が従来にも増して強く求められており、また、それが上位下請と下位 下請の取引にも大きな影響を与えていることを踏まえ、適正化に一層努力する とともに、各団体傘下の建設業者に対し、会議や講習会の開催などにより現場 事務所に至るまで指導のさらなる徹底を求めたもの。 大阪の各専門工事業団体でも、生き残りをかけてさまざまな取り組みを行って いる。まさに正念場を迎えていると言っても過言ではない。
【写真上】不足する技能士
【写真下】とび・土工の基幹技能者認定講習会 建設産業の健全な発展は、元請下請関係の適正化があってこそ成り立つもの。そのためには行政、元請、下請 が一体となった取り組みが求められるとともに、適正単価での発注、人材の育成、そして現場を支える職人た ちに対する正当な評価が急務となっている。
ここでは、昨年初めて行われた近畿地方整備局と近畿建専連(建設産業専門団体近畿地区連合会)傘下の各組 合との意見交換会、そして各組合独自の基幹技能者育成への取り組みを通じて、専門工事業の現状と課題を探 ってみたい。 (編集部・曽碩和彦) ◇◇◆ 深刻な職人不足訴える ◆◇◇ 〜〜〜〜〜 各組合が近畿整備局と意見交換会 〜〜〜〜〜 昨年7月から行われてきた近畿地方整備局と建設産業団体近畿地区連合会(近畿建専連、北浦年一会長、40 団体)に加盟する各組合との個別による意見交換会が、11月末に終了した。
意見交換会は、40団体のうち希望する23団体と行われ、整備局からは建政部の岡野茂昭・建設業適正契約 推進官、川浪信吾・建設産業課長らが出席し、各組合からは正副理事長らの役員が出席して開催された。 このうち、8月に行われた関西鉄筋工業協同組合(田村春雄理事長)との意見交換会では、組合側が深刻な技 能労働者の不足など鉄筋工事業界の厳しい現状や問題点について説明し、整備局に理解と改善を求めた。 特に、人手不足について組合側は、鉄筋技能工が関西地区だけで1日に約1,000人不足していることを 説明し、その理由として低賃金であることが最大の要因だと指摘。現状のままでは技能・技術の伝承はもちろ ん、人材の確保や育成もできないなど先行きに対する不安や、品質管理への影響も懸念されると危機感を訴え た。
そして、具体的に ▽鉄筋技能士の活用と処遇改善 ▽鉄筋基幹技能者の資格公認と活用 ▽元請からの下請工事代金の確認 ▽元請企業の民事再生法適用の場合の下請代金支払の確認 ▽鉄筋棒鋼の複数メーカー共用使用容認▽夏季の下請契約の改善 --について要望した。 これに対し、整備局側は技能労働者の不足を認識するとともに、鉄筋棒鋼の複数メーカー共用使用に関して は、設計図書の規格に適合するものであれば容認したいとの見解を示した。
田村理事長は「整備局とは初めての意見交換会だったが、鉄筋工事業界の厳しい現状を理解してもらうことが でき有意義だった。今後も年に1度ぐらいこうした話し合いの場を持ちたい」としている。
また、9月の近畿建設躯体工業協同組合(山本正憲理事長)との意見交換会でも、組合側が低賃金等で深刻な 職人不足となっている現状を説明するとともに、今後の人材育成や基幹技能者の活用などについて行政の理解 と対応を求めた。
この中で組合側は、躯体工事全般の傾向として深刻な職人不足に加え、これら職人の年収が300万円に満た ないことや職長クラスでも400万円前後しかないことを説明し、生活さえままならない窮状を訴えた。山本 理事長も「ものづくりの原点は人材を確保し育成することであるにも関わらず、このままでは新規に業界に入 ってくる人がいなくなるだけでなく、技能の伝承もできない」と危機感を示し、行政による人材確保と育成の 支援を要望した。
このほか、雇用管理を必要経費と認めることや、基幹技能者の認定を国でできないか、廃材処理費の適正化、 産廃処理の分離発注などについて要望があった。 整備局からは、雇用管理に対する必要経費については「積算体系の見直しによって可能かも」などと回答が示 された。 そして、10月に行われた社日本左官業組合連合会(日左連)近畿ブロック会(会長=北平省三・大阪府左 官工業組合理事長)との意見交換会では、同ブロック会が代金支払など下請契約の適正化の徹底について行政 の指導を求めた。
ブロック会では特に、元請に対し ?労務費相当分の現金払の徹底 ?下請代金支払期限の遵守 ?手形期間120日以内の遵守 --などの指導を要請。
整備局側からは、下請契約における代金支払の適正化について遵守するよう指導するとともに、立入調査の強 化等に努めたいとの回答が示された。また、下請業者自身が元請ときちんとした契約書を交わすことの必要性 を指摘した。
北平会長は「左官業界の実態を行政に認識してもらったことは意義あることであり、少しでも良い方向に進 めばと思っている。職人の生活を守ることが我々の使命であり、そのためにも魅力ある業界にしなければなら ない」と話し、意見交換会の成果に期待を込めた。
一方、11月には各組合との意見交換会が終わったことを受け、整備局と近畿建専連の総括的な話し合いが行 われた。 意見交換会の結果については深刻な職人不足とともに、各組合共通の問題として「元請からの指値による発 注」、「工程のしわ寄せに伴う負担」、「着工前に契約書を交わさない」、「元請からの一方的な単価の引き 下げ」、「支払の際の現金比率が低い」、「追加工事の支払がない」等の意見が多かったことが報告された。
なお、整備局と建専連ではテーマや内容などについて検討し、今後も意見交換会を継続していくとともに、 新たな取り組みとして建政部の担当官を講師に招き、建設業法を中心とした研修会の開催を予定している。
最近の厳しい建設産業の経営環境の中で、とりわけ元請下請取引の適正化が強く求められている。国土交通省 でも昨年12月、総合政策局長名による「下請契約における代金支払の適正化等」の指導と徹底を求めた文書 を建設業団体の各代表宛に通達した。
内容は ▽見積り及び契約 ▽前払金 ▽検査及び引渡し ▽支払期日
▽支払方法
▽手形期間
▽下請業者への配慮等 ▽適正な施工体制の確保
▽関係者への配慮 --の9項目を示し、これを各団体傘下の建設業者に対し、会議や講習会 の開催などにより現場事務所に至るまで指導のさらなる徹底を求めた ものとなっている。 ◇◇◇◆ 基幹技能者めざし講習会 ◆◇◇◇ 〜〜〜〜〜 現場での中核的役割担う 〜〜〜〜〜 現在、各専門工事業では建設工事の中核的役割を担うべき「基幹技能者」の認定に向けた講習会を積極的に進 めている。
基幹技能者は国土交通省の「構造改善戦略プログラム」の一環として作成された「基幹技能者の確保・育成・ 活用に関する基本方針」に基づく専門工事業団体の認定資格で、平成16年度末現在でとび・土工、鉄筋など 全国で18職種・25団体の約20,000人が基幹技能者としての認定資格を取得している。
関西地区でも昨年、とび・土工、鉄筋、左官の各職種について講習会が開催された。とび・土工と左官は初め て、また鉄筋は一昨年に続いて2回目となるもの。
このうち、昨年7月に行われた「とび・土工基幹技能者認定講習会」には、近畿建設躯体工業協同組合に加盟 する各社の1級とび技能士及び職長経験者らの有資格者45人が受講した。講習会では、基幹技能者のあり方 をはじめ現場実務に関しての施工管理、原価管理、品質管理、安全衛生環境管理などについて、富士教育訓練 センターの菅井文明校長、日本躯体の岡部正彦氏らを講師として学科が、また、最後に実技としてグループ討 議が行われた。
講習会の主催者であり資格認定団体の日本躯体(社日本建設躯体工事業団体連合会)の才賀清二郎会長は、職 人たちが基幹技能者としての認定を取得することで、たとえば賃金に上積みする最低保障制度の確立を求める とともに「認定制度が専門工事業者の生活基盤の安定と地位向上に繋がってほしい」と述べた。
同じく、大阪では初めてとなる「左官基幹技能者認定講習会」は昨年9月、3日間にわたり開催された。これ までの東京、仙台に続く講習会には、大阪府左官工業組合の27人をはじめ兵庫や京都など日左連(社日本左 官業組合連合会)近畿ブロック会の各組合から合わせて81人が参加した。資格要件は1級左官技能士、1級 建築施工管理技士・2級建築施工管理技士(仕上げ)、職業訓練指導員(左官職種)のいずれかの有資格者。
3日間の講習会では「基幹技能者の位置づけと役割」などについての講義とともに、施工計画や品質管理、T QC、左官デザイン論など、最後に考査試験が行われた。 資格認定団体である日左連の守屋清副会長は「質の高い施工を提供するためには、現場の基幹となる技能者を 確保、育成し活用することが大事。基幹技能者の認知度が上がれば、個々の技術のレベルアップにも繋がる」 と期待を寄せた。
一方、一昨年の続き2回目となる「鉄筋基幹技能者認定講習会」も昨年10月に3日間の日程で実施された。 資格認定団体の全鉄筋(社全国鉄筋工事業協会)の主催によるもので、講習会には1級鉄筋技能士などの有資 格者36人が受講した。
講習会では、全鉄筋の館岡正一副会長らを講師に工事原価管理、品質管理、施工管理、建設概論などととも に、新工法の事例研究についての講義が行われた後、最後に修了試験が実施された。
講習会の最終日に挨拶した関西鉄筋工業協同組合の田村春雄理事長は「鉄筋基幹技能者は鉄筋工事の責任施工 を実施する上級職長として、文字通り技能者の最高峰に位置する者」、また全鉄筋の和田進会長は「鉄筋基幹 技能者が業界のレベルアップに貢献し、それが社会的地位の向上にもなる」と述べ、それぞれの立場から基幹 技能者の果たす役割に期待を込めた。 基幹技能者は現在、国による「入札・契約制度の適正化に関する法律」(適化法)で施工体制台帳への記載が 容認されるなど、資格制度の意義は徐々に高まっているが、それと同時に賃金など待遇面での評価も忘れない でほしい。魅力ある業界への第一歩は、職人たちの優れた技能や仕事に対し、何よりも正当な評価を与えるこ とだろう。正当な評価は良い仕事に繋がり、良い仕事を正当に評価すれば、人材も集まってくるに違いない。 (編集部・曽碩和彦)
