財政状況が逼迫する中にあっても、公共サービスの低下は許されず、国はじめ地方自治体では様々な取り組みを進めているが、大阪府では、府営住宅整備はじめ老朽化した施設の建替にあたりPFI手法を、また既存庁舎等の省エネルギー化改修ではESCO事業を導入している。いずれも民間から事業者を募り、民間のノウハウを活用して、公共施設の整備や設備改修を実施、それぞれに成果を上げている。PFI事業では、事業に参入する企業間格差が広がり、ESCO事業では中小規模施設への適用が課題とされる。これら両事業の現状を追ってみた。PFI大阪府では、「江坂駅南立体駐車場整備事業」を初のPFI事業として実施して以来、これまで多くの施設でPFI手法を採用してきている。昨年度では、「水と緑の健康都市第一期整備等事業」や「府営筆ヶ崎住宅民活プロジェクト」で事業者が決定したほか、「府立消防学校再整備等事業」を特定事業に選定。今年度は5月に、「府営刈田住宅民活プロジェクト」と「府営岸和田下池田住宅民活プロジェクト」を特定事業に選定し、10月に入札を予定しており、6月には「(仮称)水と緑の健康都市小中一貫校整備等事業」の事業者が決定。現在では、「府営千里佐竹台住宅(2丁目)」で、民活手法導入可能性検討調査を実施しているほか、「府警金岡単身寮整備等事業」が入札参加五グループによる審査が行われており、来月には落札者が決定することとなっている。また、大阪市でも昨年10月に同市初のPFI事業として「津守下水処理場消化ガス発電設備整備」の事業者を決めたほか、四月からは新たなPFI事業構築のため、PFI事業者の意向や動向を市場に反映するための調査を実施している。府内市町村では、昨年11月に東大阪市の「(仮称)東大阪市消防局・中消防署調査整備事業」で事業者が決定し、吹田市では「(仮称)山田駅前公共公益施設整備事業」が10月にも事業者を決める。このほか、各府県での主なPFI事業では、京都都初の「京都府営住宅常団地整備等事業」で事業者が決定し、京都市では「伏見区総合庁舎整備等事業」が八月に事業者を選出。滋賀県では「平和祈念館(仮称)」整備でのPFI導入可能性検討調査を実施、兵庫県では初のPFI事業「尼崎の森中央緑地」が5月に竣工、神戸市でも「新中央市民病院整備事業」についてPFI事業でとする方針を固めている。これらのPFI事業の特徴としては、大阪府の府営住宅民活プロジェクトや一部を除き、その殆どが大型案件であり、事業方式が施設建設後に所有権を行政側に移転し、維持管理業務等を行うBTO方式となっている点にある。そしてそれこそがPFI事業参画における大手企業と地元企業の格差の要因となっている。大型案件の場合、事業規模・期間とも大きくなりその分リスクも大きくなる。そうなると資金調達力をはじめ信用保証の面で、地元企業は大手企業に劣り、また行政側も事業者の倒産や破産など、「リスク回避」に走る傾向が多々見受けられるため、大型案件は大手企業の独壇場となっているのが現状だ。また、事業者の決定では総合評価方式を採用しているが、ここでも施設のデザインや性能評価より価格面での評価が重視される傾向にある。この点について、地域レベルでのPFI推進を目指すNPO・大阪PFI協会の大植茂樹理事長は、弊紙での取材に答えて「発注者側にVFM(費用対効果)が第一との考えが根強く、イニシャルコストを抑えたいという意識が働いているため」で、「初めにコストありき」の体質だとする(弊紙2月13日付掲載)。また、事業提案における行政・企業側の体制にも課題が残る。大阪府などの府県レベルでは担当セクションを設置しているところはあるが、市町村レベルでは数が少なく、また企業側でも大手には専任の部署・担当者を設けているが、地元企業にはそこまでの余裕はなく、「それが事業提案上でのネック」(大植理事長・前出)となっている。PFI事業には、官民双方にインセンティブが働くような仕掛けが必要だ。大阪府でも、事業規模を考慮したり、金融機関を訪問して協力依頼などに務めているが、PFI法の趣旨である「民間発意」を活かすための環境整備が、今後も重要な課題となっている。事業手法はBTO方式主流府営千里佐竹台住宅完成予想イメージ水と緑の健康都市完成イメージ参入への企業格差広がるESCO民間資金活用型などで16施設ESCO事業とは、民間の企業活動として省エネルギーを行い、ビルオーナーにエネルギーサービスを提供するもので、自己資金型のギャランティード・セイビングス契約と民間資金活用型のシェアード・セイビングス契約があり、大阪府ではシェアード・セイビングス契約を中心に府有施設で実施してきている。シェアード・セイビングス契約では、ESCO事業者は対象建物の省エネルギー改修に係る設計・施工・改修費用の調達・計測検証・運転指導を一括して実施、その結果で得られた省エネルギー効果を保証し、省エネ改修に要した投資(金利含む)や経費等は、全て省エネルギー一定期間の経費削減分で償還、残余をビルーオーナーの利益とするもの。大阪府では、平成13年度に実施した大阪府ESCO推進マスタープラン策定調査を基に、同十四年九月に「大阪府ESCO推進マスタープラン」を策定。同プランに基づき、既存庁舎でESCO事業を実施するとともに、府有施設のみならず、市長村や民間ビル等より広汎な府有施設への導入促進を図るため、同16年7月には「大阪府ESCOアクションプラン」を策定している。事業推進へアジアも視野に大阪府のESCO事業は、平成14年度の府立母子保健総合医療センターを皮切りに、現在まで16施設で実施され、また岸和田市でも岸和田競輪場メインスタンド、神戸市での貿易商工センタービル等、他の自治体でも導入が始まっている。特に母子保健総合医療センターは全国の自治体では初めての導入であり、また成果を上げていることから他の自治体からの見学や問合せも多く、さらにこれら府の取り組みに対して、平成14年度省エネルギー優秀事例全国大会で「経済産業大臣賞」が贈られている。これら実績を重ねるごとに、事業へ参入する企業も増加、平成16年8月には、大阪府はじめ自治体や大学、設備団体、民間企業により「大阪ESCO協会」が設立された。同協会では、ESCO事業の発展・推進を目指し、今年1月には事例発表会と技術交換会を開催、会員相互の情報交換や技術向上に務めている。また昨年10月には、大阪府と同協会では、ESCO事業の民間への普及啓発を目的とした「ESCO事業可能性簡易診断システム」を共同開発した。同システムは、所有するビルの規模や現在のコスト、竣工年等を入力して可能性に関する簡易判定を行うステップ1と、個々の省エネ・省コスト手法の検討までおこなうステップ2で構成。パソコンから簡単にアクセスすることができる。一方、大阪府では今年4月、中小規模施設への普及を図るため「中小規模施設への効果的なESCO事業推進に向けて」をとりまとめ、簡易公募型ESCO事業導入とESCO推進ファンドの創設を打ち出した。これは、従来のESCO事業の提案公募に係る書類作成の負担を減らし、資金調達や資産保有のリスクを低減して、採算性の悪い中小規模施設での事業展開を図るためのもの。簡易公募型は、提案書類をA3用紙1枚程度として簡素化したもので、今年度2件の提案公募を行ったところ4グループからの応募があり、その効果に府では一定の評価を下している。ESCO推進ファンドは、ESCO事業者の資金調達の容易化を図り、資産の長期保有を解消するため、事業者の資産を早期に取得して資産のオフバランス化と事業者のキャッシュフローを改善する資産取得型「ESCO推進ファンド(仮称)」を創設するもの。これらの取り組みに加え、大阪府では中国を対象としたESCO事業展開を図るため「大阪府ESCO事業アジア啓発事業」を計画し現在、予備調査を実施している。ESCO事業の導入・展開の可能性を調査し、今秋に予定されている上海市でのESCO事業プロモーションを効果的に行うこととしている。このほか、優良なESCO事業者を育成するため今年3月には「多さ府優良ESCO事業者等表彰」を創設、事業者並びに設計・診断者、事例実施者を表彰するもので、第1回の表彰では、事業者2者と設計・診断者3者が表彰された。地球規模での環境問題が議論される中、二酸化炭素排出量削減や省エネルギーを実現し、また中級温暖化対策やヒートアイランド対策にも有効なESCO事業。今後、その需要は一段と高まってくることが予想され、また、アジアへの貢献を目指す大阪府にとっては不可欠な事業に発展しつつある。