新たな交流圏創出への一翼担う主要構造物 早期供用開始に弾み―。国土交通省近畿地方整備局が建設を進めている五條道 路は、京奈和自動車道の一部を構成し、五條北インターチェンジ(仮称)から 和歌山県境に至る延長7.9?の高規格幹線道路。これまで、暫定供用に向け て、トンネル工事、高架橋上下部工事、改良工事を全面展開してきたが、主要 構造物の一つである五條西IC改良工事、釜窪西改良その他工事が来月に完成 することにより、ライン形成には一段と弾みがついた。京奈和自動車道の中で も土工量約90万立方mという大規模土工事の施工を担当している(株)奥村組 では、環境保全に留意しながらVE提案ならびに価格以外の要素と価格を総合 的に評価する総合評価方式により発注された工事を安全第一に推進。現在の進 捗率は95%に達しており、今後も気を緩めることなく竣工への道をひた走って いく。
【写真上:伐採木を利用した法面吹きつけ/下:新池橋】
京都・奈良・和歌山を結び、関西大環状道路のの重要な路線のひとつとして、関西全体の活性化に大きな役割 を果たす京奈和自動車道。大和平野を南北に縦貫して京都と和歌山を結ぶ延長約120?の高規格幹線道路で、 歴史・文化・人・地域をつないで新たな交流圏を創出する。 広域的には、既存の高速道路および主要な国道と連携することで相互ネットワークを形成し、京都・奈良・和 歌山の各拠点都市の連携を強化する京奈和自動車道。また、地域的には、京奈和地域の特色を踏まえたまちづ くりを支援するとともに、国道24号の渋滞緩和、交通事故の減少、走行時間の短縮、定時性の確保など、地域 の活性化に寄与する役割を担っている。 なかでも、奈良県の南北軸として骨格をなし、なら半日交通圏道路 網構想を支援するなど、奈良県内の交流の促進に大きな役割を果たすものと大きな期待を集めているが、それ への先駆けとして大和・御所道路(大和区間)の一部区間が今月15日、五條道路の一部区間が今月22日に待望 の開通をそれぞれ迎える。 大和区間と御所区間で構成される延長約27?の大和・御所道路のうち、今回開通するのは郡山南インターチェ ンジ(天理市二階堂北菅田町)から橿原北インターチェンジ(橿原市小槻町)間の高架部分(7.8?)と西名 阪自動車道郡山インターチェンジから県道天理斑鳩線間の平面部分(1.7?)。所要時間の短縮をはじめ、交 通混雑の緩和や交通事故の減少が期待される。一方、22日に一部区間が開通する五條道路は、奈良県五條市居 傳町を起点とし、五條市畑田町(和歌山県境)に至る延長7.9?の高規格幹線道路。道路規格は第一種第2 級、設計速度は毎時100?で、1991年度に事業化された。 今回開通するのは、このうちの五條北インターチェンジ(五條市居傳町)から五條インターチェンジ(五條市 釜窪町)間の約4.5?。現在は、並行する国道24号において、最大1,200mの渋滞が発生しているが、暫定2車 線での供用が始まることにより、交通の転換が図られ、交通混雑の緩和ならびに交通事故の減少が期待され る。また、五條市域の移動時間が短縮され、道路交通の利便性が向上するとともに、住宅団地や工業団地の開 発促進などによって地域の活性化がもたらされる。残りの五條インターチェンジから和歌山県境間(約3.4 ?)については、早期供用に向けて、トンネル工事、高架橋上下部工事、改良工事を全面展開しているが、五 條西IC改良工事、釜窪西改良その他工事が来月完成することにより、ライン形成には一段と弾みがついた。 奈良県五條市釜窪町から五條市畑田地先において進められてきた同工事の延長は、本線部が653m、北部幹線道 路が494m。土砂掘削76万3,800立方m、路体盛土14万5,840立方m、切土法面3万0.280平方m、盛土法面9,570平 方mの道路土工のほか、橋台工四基、RC橋脚一基、プレテンション方式PC単純床板一橋などを施工するも ので、現在の進捗率は95%に達している。 《大規模工事に息づく高度な技術力》 和歌山と奈良の県境で、金剛山と吉野川にはさまれた中央構造線の河床段丘に位置する高低差の激しい現場に おいて、土工量約90万立方mという京奈和自動車道建設工事の中でも大規模土工事となる五條西IC改良工事 の施工を担当し、環境にやさしい工事を推進しているのは(株)奥村組。樋口哲所長をはじめとする精鋭スタ ッフが一丸となって早期完成を目指している。 ▽伐採樹木および除根のリサイクル方法についての施工計画▽切土・盛土の効率的な施工方法および工程につ いての施工計画▽残土運搬時間の環境および安全に対する施工計画の提案―に対するVE提案ならびに価格以 外の要素(リサイクル率、施工計画の提案)と価格を総合的に評価する総合評価方式により発注されたこの工 事が伐採から軌道に乗り始めたのは2003年9月。現場内の2箇所において奈良県橿原考古学研究所による文化 財発掘調査で発掘された弥生時代後期の竪穴住居跡および古墳は、「釜窪丈六堂遺跡」と命名された貴重な遺 跡。この発掘調査・見学・写真保存のために約半年間の工程調整を必要としたが、「貴重な歴史資料の解明に 協力・立ち会いすることができたのは、尊い経験となった」(樋口所長)。 《環境保全に留意》 切土および場外への残土搬出が本格化したのは2004年3月。高低差が70m(切土40m、盛土30m)、崩落跡が随 所にあるため、工事用の進入路が一箇所しか確保できなかったので、片押しの施工となった。 本線の盛土工は、1.6立方mのバックホウをはじめ、32t級のダンプトラック・ブルドーザー、起振力15t級の 振動ローラーなど、大型重機を使用し、掘削、積み込み、運搬、敷き均しを効率的に展開。土質は含水比の高 いシルト混じり砂礫で、降雨等により表面が泥濘化するばかりでなく、締め固め密度は確保できるものの、強 度が不足しているなどの難条件を有していた。 このため、(株)奥村組では、品質管理の徹底を図り高品質の確保に努めたのはもとより、土質の変化毎にモ デル施工を行って締め固め工法を確定。また、円弧すべりに対する検討も実施してジオテキスタイル・土質改 良を実施するなど、万全の対応策を講じて?土との闘い?を制していった。 また、約70万立方mの発生土を場外に搬出するために、発生土受入地(2から25?の範囲で9箇所)の確保、 1日最大2,500立方mを運搬するためのルート調整などにも留意。これにより、1日約400台のダンプトラック が動くために懸念されていた交通渋滞も避けることができた。 粉塵を防止するための散水の励行、1,000立方mの沈砂池(3箇所)の設置、機械式濁水処理設備(2箇所)の 設置などを通じて環境保全に努めながら進めてきた土工事は1月に完成。また、新池橋の橋台6基、橋脚一 基、PC上部工一橋についても既に完成しており、現在は用排水工・法面工などを5月の完成目指して推進し ている。なお、盛土下部に施工したボックスカルバートは、経済性に劣るものの、工程・品質・安全を優先的 に考えて現場打ちから上下二分割のPRCタイプに変更した。 《100%近いサイクルも率も達成》 VE提案の伐採樹木のリサイクルについては、有効利用を図ることはもちろん、工事に伴う産業廃棄物の発生 抑制による環境保全への寄与、廃棄物処理に伴う費用の削減による工事費のコストダウン、現場の条件に適合 するとともに、リサイクル率の高い工法および利用方法の検討・実施を目的とするもの。それへの対応として は、発生材は有価木としての処理、製紙材料としての利用、木製階段としての利用のほか、発生木材はほとん ど破砕処理して仮置き後に種子・肥料・侵食防止剤・基盤材を混合して切土法面への吹付け(植物誘導吹付 工、厚層基材吹付工)、平地・緩斜面等へのマルチングを行い、100%近いリサイクル率を達成。「今後、同 種工事への水平展開による利用促進が望まれる」(樋口所長)。全体の進捗率が95%に達している五條西IC 改良工事では、地元をはじめ数多く訪れる一般見学者のために場内が展望できる場所に工事パネル等を展示す るなどして土木工事に対するイメージアップにも貢献。また、工事車両の環境保全にも万全を期し、工事期間 中の周辺地域に対する迷惑防止に留意した。具体的には、事前と施工中に振動・騒音・大気等の環境測定を実 施。また、国道と工事用進入路との接点に交通誘導員を配置し、高圧洗浄式湿式タイヤ洗車装置・タイヤ洗浄 員と高圧洗浄機の2種の組み合わせにより、工事車両の汚れを完全に取り除いてから公道を走ることを義務づ けた。 このほか、ヒヤリ交通マップでの教育、五条警察署への安全運転講習依頼等によって運転マナーの向上を図る などして地元からの工事に対する理解と協力を得ていた(株)奥村組。これを原動力として交通災害を引き起 こすことなく円滑に工程の進捗を図ってきた。 また、多種多様な工種の作業員が毎日100人以上従事していた現場では、月1回の安全教育・訓練の実施、 職長によるパトロール実施、定期的な懇親会の開催等によってコミュニケーションの向上を図り、安全意識の 高揚をもたらしてきた。「残り少ない工期ではあるが、最後まで気を抜かずに高品質を確保しながら、安全活 動を推進していきたい」と、樋口所長は気を引き締める。