全員参加でリスク低減確立しよう「安全文化」 今年も7月1日から7日まで「全員参加でリスクの低減 確立しよう『安全文 化』」をスローガンに「2006年度全国安全週間」が展開される。この全国安全 週間は、1928年に初めて実施されて以来、「人命尊重」という崇高な基本理念 の下、産業界における自主的な労働災害防止活動を推進するとともに、広く一 般の安全意識の高揚と安全活動の定着を図ることを目的に、一度も中断するこ となく続けられ、今年で79回目を迎える。 また、この6月を準備期間として全国の各労働局が中心となり、労働災害防止 に向けた種々の啓発活動を実施している。建設業界でも、大阪府下では建設業 労働災害防止協会大阪府支部をはじめ建設業各団体、ゼネコン各社は安全大会 の開催などを通じてそれぞれ安全意識の高揚に努めている。 こうした中、大 阪労働局でも同局が主唱する「大阪危険ゼロ先取運動」とも連動し、種々の啓 発活動を展開している。ただ今回は、今年に入ってから死亡事故が急増してい ることから、この6月を「死亡労働災害防止強化月間」と位置づけ、死亡災害 発生に歯止めをかけるべく、局長安全パトロールなどを通じて監督指導の強化 とともに、啓発活動を行っている。そこで、大阪労働局労働基準部の伊藤秀 一・安全課長に、大阪府下の労働災害の現状や課題、死亡労働災害防止強化月 間の取り組み、さらに建設業界に対する要望や期待などを聞いてみた。 (編集部・曽碩和彦)
――まず大阪府下の昨年の労働災害の発生状況からお聞かせください。 伊藤課長:大阪府内で発生した全産業における労働災害(死亡もしくは休業4日以上の災害)は2004年に初め て1万件を下回り、昨年も前年に比べ5274件少ない9.113件と2年連続で1万件を下回ることができました。 ただ、死亡災害については2001年から2004年までは100人を下回っていたのが、昨年は前年の87件から15件増 加して102件と大幅に増加し、5年ぶりに100件の大台を超える残念な結果となりました。 ――建設業に関してはいかがでしたか。 伊藤課長:建設業についても昨年の休業4日以上の災害は1.531件と前年に比べ226件減少しているのですが、 死亡災害をみると前年の21件から大幅に増加し、全産業で最も多い31件となっています。災害の種類別では、 やはり墜落・転落災害、飛来・落下災害によるものが多いですね。 ――今年に入ってからこれまでの発生状況はどうですか。 伊藤課長:全産業における死亡災害をみると、今年は4月末頃までは昨年を下回る水準で推移していたのです が、5月の連休明け頃から増加し、5月末現在の速報値では死亡災害が多発した昨年同期より一件多い35件 と、非常に憂慮すべき事態となっています。都道府県別にみても一時期は全国ワースト1となりました。この うち建設業では前年同期の15件に比較して1件少ないものの14件が発生しています。内容は墜落・転落災害が 五件、崩壊・倒壊災害が二件、建設機械等の災害が2件などです。 ――悪かった昨年と同水準ということですから、今後は一層気を引き締めて安全対策を徹底する必要がありま すね。 伊藤課長:そのとおりです。このため、大阪労働局では全国安全週間の準備期間である6月を「死亡労働災害 防止強化月間」と位置づけ、局長等による安全パトロールをはじめとする各種啓発活動を積極的に展開し、広 く府民に災害防止を訴えるとともに、監督指導の強化等により死亡災害の発生に歯止めをかけることにしてい ます。 ――具体的にはどのような啓発活動を実施するのでしょうか。 伊藤課長:まず5月31日には緊急署長会議が行われ、局長から府下13の各労働基準監督署長に対し、監督指導 等の強化とともに、各種啓発活動の実施が指示されました。また、6月1日には局長等による「中之島新線建 設工事」の現場に対する安全パトロール、6月19日には東大阪労働基準監督署管内において工業団地等に対す るパトロールを実施しました。そして、6月21日には府内高速道路の五カ所のサービスエリア等で労働基準部 長等が、疲れたら休憩をとるよう呼びかけるデザインのウェットティッシュを配布し、交通労働災害防止を呼 びかけました。そのほか、関係団体への要請も行ったところです。 ――ぜひ成果をあげてほしいものです。そしてその成果を7月からの「全国安全週間」に繋げてほしいもので す。 伊藤課長:そうしたいですね。そのためには関係者の皆さんの御理解と御協力が不可欠だと思っています。7 月3日に開催される「大阪危険ゼロ先取運動推進大会」では、良い結果が報告できるよう取り組んでいきま す。 ――その「大阪危険ゼロ先取運動」についてもお話ください。 伊藤課長:今年で4年目となりますが、この運動はそれまでの「ゼロ災・大阪」運動の成果を踏まえ、災害ゼ ロからさらに進んで危険性をゼロに近づけ、真の災害ゼロを実現するとともに、23年間続いている大阪の労働 災害全国ワースト1を返上しようというものです。今年は、リスクアセスメント手法等の導入による潜在的危 険有害要因の除去・低減を通じた機械設備、作業方法等の安全化などを重点に展開していきます。 ――ところで、先にもふれましたが今年も7月1日から7日まで「全員参加でリスクの低減 確立しよう『安 全文化』をスローガンに79回目となる「全国安全週間」が実施されます。今年の特徴などは。 伊藤課長:スローガンを見ても以前は「無災害」とか「災害ゼロ」といった表現が多かったのですが、最近で は「危険ゼロ」や今年の「リスクの低減」のように、危険性や有害性の事前のチェック、先取り等の必要性が 盛り込まれています。それだけ安全に対する意識が高まってきたということだと思います。 ――建設業各社でも例年6月の準備期間を中心に安全大会を開催するなどして安全意識の高揚に努めています が、安全に関して業界や各企業に対する要望、期待などがありましたらお聞かせください。 伊藤課長:建設業の場合は最初にも話しましたが、災害の多くが墜落・転落によるものです。墜落・転落災害 は作業床や手すりの設置、開口部を無くすなど設備面の対策により、かなりのものが防げるかと思います。ま ず、基本的な対策を現場の隅々まできちんと講じるということが大事ではないでしょうか。建設業の現場は工 事の進捗に伴い、日々危険箇所が変わってしまうので、こうした基本的な安全対策を漏れのないように徹底す ることが重要と考えています。 ――基本的な安全対策を現場の隅々まで徹底するということですね。最後に、今年も熱中症が心配される季節 となりましたが、具体的な対策などはどのようにお考えでしょうか。 伊藤課長:府下の熱中症については休業災害はあったものの、この4年間は死亡災害ゼロを続けています。労 働者の意識の高まりとともに、現場でも冷たい水や塩を備えるなど環境面での予防策がかなり浸透してきてい るようですね。ただ、熱中症になった場合は早めの対応が大事です。今年も死亡災害ゼロを達成して5年連続 とできるよう取り組んでいきます。 ――本日はどうもありがとうございました。 伊藤秀一(いとう・しゅういち) 東京工業大学大学院(理工学研究科)修士課程修了。2002年6月高知労働局労働基準部安全衛生課長、2004年 4月茨城労働局、労働基準部安全衛生課長、2005年4月同監督課長、2006年4月から大阪労働局労働基準部安 全課長。兵庫県出身、36歳。