「府民の目線」と「情報開示」を徹底 府有建築物に対する耐震化やリニューアル更新、さらに良質な住宅ストックを中心にし た安心・安全なまちづくりと、公共建築物に対するニーズは多様化する一方だ。これら の要請に応え、各種の施策を推進する大阪府住宅まちづくり部では今年4月、戸田晴久 部長が就任。厳しい財政状況の中、時代の変化に見合った計画の見直しや効率的な事業 執行に腐心する戸田部長は、建築物の信頼性向上や府内の中小建設業の振興にも気を配 る。「府民の目線」と「情報開示」を心掛ける戸田部長に、今年度事業の見通しなどを 聞いた。(渡辺真也)
――まずは今年度事業の見通しについて。 「生活に身近な問題として安心と安全があり、特に耐震が大きな課題となります。国の耐震化促進法を受け、 大阪府でも住宅をはじめ建築物での耐震化率を国の目標と同様の90%を目指すなど10カ年計画を策定すること となっているわけですが、財政状況を考慮した場合、頭の痛いところです」 住宅の耐震化については、持ち家と借家ともに「なかなか進まない」とする。持ち家には高齢者世帯が多く、 借家の場合、耐震改修後も賃貸料を上げることが困難なためだ。 「10カ年計画とはいえ今年度が初年度となるため、秋までには計画の骨格をつくり、来年度予算で議論すると ころまで持っていかないと間に合いません」 ――府営住宅の耐震改修や木造密集市街地の整備も重要です。 「府営住宅についてはストック活用計画に基づき実施しておりますが、これも耐震性も含めて建替えや改修な ど見直しを行います。密集市街地では、避難経路沿いの建物や構造物の倒壊を防ごうと、いわば面的な安全確 保の支援が出来ないかと検討しています」 ――安全・安心ではアスベスト対策もあります。 「公共性の高い場所については緊急措置で進めておりますが、府有施設だけでも相当数あり、国の制度を活用 しながらここ2から3年のうちに対処できればと考えています」 これら事業を推進する上での核となるものとして戸田部長は、今年3月に住宅まちづくり審議会の答申、「大 阪府における新しい住宅まちづくり政策の基本的方向について」をあげる。この答申を受けて府の住宅まちづ くりマスタープランを改訂し、この中で、安全・安心はじめ官と民、官民協働で取り組む役割や重点施策を示 す予定としている。 戸田部長はまた、安全・安心の大きな課題として建築確認の信頼性向上を上げる。「今国会に提出されている 建築基準法改正案では、現行の指定確認検査機関とは別に、知事が指定する指定構造計算適合性判定機関を設 置することになっており、これへの取り組みも喫緊の課題です」 ――府営住宅の建替事業では、PFI手法による民活プロジェクトを採用されております。 「府の直接事業で建替を実施した場合、現在の府の予算的には年間で1,600戸が限度です。それに400戸上乗せ して2,000戸程度とすれば、耐用年数を迎えるストックの更新が期限までになんとか間に合います」 今年度は2団地で民活手法を採用する予定とするが、その中での課題として大阪の建設業の振興にも役立てた いとする。 「大阪の公共事業ですし、大阪は中小企業のまちとも言われており、地場の中小建設業者を盛り立てたいと思 っております。従来型のPFI事業では、どうしても大手業者に限られてきますから、可能であれば何か大阪 流のPFIといった形で出来ないものかと」 ――その建設業界の現状をどうご覧になります。 「厳しいですね。特に中小や下請関連は非常に厳しいと思います。総合評価方式にしても技術力はさることな がら、提案能力といった部分で中小はどうしても大手に劣るきらいはありますから」 永らく建築行政に携わってきた戸田部長だが、記憶に残る仕事として、木造賃貸密集市街地整備を挙げる。係 長時代に5年間にわたり取り組んできたという。 「地元を掘り起こすためのまちづくり推進機構の組織づくりと居住者への家賃補助、オーナーへの建設費助成 制度の3点セットをつくり、市町村の了解も取り付け整備を進めてきました。ただ、賃貸経営が以前と比べ難 しくなってきており、整備方向をどうするかが今後の課題となってきてます」 仕事を進める上での信念として戸田部長は、「府民の目線」と「情報開示」を挙げる。行政の施策が府民から 見て本当に適切かどうか、府民の立場で考えてから議論を進める。また、悪い情報ほど隠さず、早めに公表す る。 「行政の施策を府民の目線というフィルターを通し納得してもらうことと、こちらにとって都合の悪い情報ほ ど出来るだけ早く、正直に出す。この2つはこれまでやってきたつもりですし、今後も守っていきます」 ■戸田晴久(とだ・はるひさ)=1972年4月大阪府採用、1984年4月建築部建築監理課主査、同1987年5月建 築部住宅政策課民間住宅係長、1989年4月建築部住宅政策課主査、1992年4月建築部開発指導課主幹、1994年 4月企画調整部企画室主幹、1997年4月建築部住宅政策課参事、1998年4月建築都市部住宅まちづくり政策課 参事、1999年5月建築都市部公共建築室参事、2000年4月建築都市部住宅まちづくり政策課長、2002年4月建 築都市部副理事、2005年4月建築都市部技監を経て今年4月から現職に。京都大学工学部建築学科卒。56歳。