森林と木のリラックス効果 (独)森林総合研究所の宮崎良文生理活性チーム長は1月15日、大阪市立住ま い情報センター(北区)で講演した。テーマは「森林と木のリラックス効果」 で、自然と人間関係、快適性の考え方などについて持論を展開した。この中で 宮崎さんは、「我々は自然対応用の生理機能を持って人工環境下に生きてお り、基本的に常に高い緊張状態にある。今後、ストレス緩和に向けた実質的な 森林浴法、室内における自然環境要素の利用法の提案がなされていくものと思 われる」と言及した。
《自然と人間、快適性など》 最近、人間の状態を生理的に評価する手法の発達によって森林浴実験データ、五感を介してもたらされる実験 室内実験データが蓄積されるようになってきている。「森林浴をしたり、代表的な自然環境要素である木材に 触れたりしたとき、強すぎる緊張状態、高すぎる交感神経活動が抑制され、リラックス感を持つ。人間として 本来のあるべき姿に近づき、それが快適感となって認識されるのだ」と話した。 複雑化した現代社会において求められている、あるいは人間が本来求めている快適性は、消極的快適性と積極 的快適性のうち、積極的快適性である。消極的快適性は、安全や健康の維持を含む欠乏欲求であり、不快の除 去を目的とするもので、積極的快適性は適度な刺激によってもたらされる成長欲求であり、プラスアルファの 獲得を目的としたもの。 これからの快適性研究では積極的快適性が志向されるという。森林浴や木材等の自然環境要素でも、その刺激 により過度な緊張が解かれ、より積極的に生態が沈静化されることが実験データで明らかになりつつある。宮 崎さんは「快適性に関してはまだ、確定した定義はない。『人間と環境間のリズムの同調』と考えている。人 間がその場の環境と同調しているか否かという観点から、快適性を論じることができる」と述べた。 また、人間と自然の同調作用を例にあげて、「私たちは花や樹木の自然に対しては無意識に近寄ってしまうこ とを度々、経験する。これも今を生きる人間がヒトとなってからの500万年の間、自然の中で生活してきたこ とと関係している。人間と自然は、価値観の基礎を作り出す遺伝子レベルで先天的に同調しているため、自然 とふれあったとき、人間としてあるべき姿に近づきリラックスするのである」と語った。 ▽解説記事 《森林セラピーが流行》 森林の国ドイツでは120年の歴史を持ち、温冷水浴(水)、森林散策(運動)、ハーブ・薬草を用いた料理 (食物)、アロマテラピー(植物)、心身の自然との調和(調和)の5つの療法を組み合わせた総合的な森林 療法が行われている。同国やフランスでは森林療法に健康保険が適用され、多様なプログラムが用意されてい るという。 日本で最近注目されているのが「森林セラピー」。森林浴という用語は1982年の林野庁「森林浴」構想に始ま ると宮崎さんが著書で述べられているように20年来の歴史を持つが、その効果や生理評価法の研究は近年よう やく進展を見るようになった。昨年10月には林野庁と森林総合研究所が「森林浴で抗がんタンパク質(ナチュ ラル・キラー細胞)を増加させる効果がある」と発表、注目されている。 研究成果を追い風に(社)国土緑化推進機構など国の機関が、増大する医療費対策を念頭に、森林面積の広い 日本に適する予防医学として「森林セラピー」を推進している。2004年3月に森林セラピー研究会が発足、全 国でウォーキングロードや宿泊施設などを持つ「森林セラピー基地」20数か所を認定、国家資格として森林セ ラピスト制度の創設も視野に入れている。また同研究会のワーキンググループでは森林浴マンションなど都市 生活の中にその効果を取り入れる可能性を探っている。今年2月25日には宮崎県日之影町で「第2回森林セラ ピー基地候補全国サミット」が開催、あらたに全国に基地が誕生する予定。 現在では、森林セラピーを一歩進めた「エコセラピー」という考え方も生まれている。森林だけでなく、海や 川などの自然資源、文化芸術や地域生活まで含めた地域資源を「エコ」として活用、「健康によいまちづく り」は21世紀のキーワードになりそうだ。 森林セラピーポータル http://forest-therapy.jp/