《談合防止の大きな抑止力へ》
公正かつ自由な競争政策を確立するために、幅広い意見を参考に議論されてきた「改正独占禁止法」が1月4 日に施行された。改正の大きな柱は、談合など自発的に情報提供を行った場合に課徴金を減免する「措置減免 制度の創設」を導入したほか、「課徴金算定率の引き上げ」、「犯罪調査権限の導入・罰則規定の見直し」な どを盛り込んだこと。国も入札談合の大きな抑止力として大きな期待を寄せており、今後は入札契約適正化法 との両輪で、不正行為摘発に当たる方針だ。 《柱は課徴金引き上げと措置減免》 具体的に「課徴金算定率の引き上げ」では、カルテル・入札談合などの違反行為防止するために、これまでの 課徴金の算定率を製造業など大企業は6%から10%へ、中小企業は3%から4%へ引き上げた。繰り返し違反 行為を行った場合(過去10年以内に課徴金納付命令を受けたことのある事業者)などについては、課徴金額を 加算する制度を導入し、通常の5割増しの算定率を適用する。一方、違反行為に係る実行期間が2年未満であ る場合、公正取引委員会が立入検査などを行った最初の日の1カ月前までに違反行為をやめれば課徴金算定率 を2割軽減。課徴金と罰金の両者を併科する場合には、罰金額の2分の1に相当する金額が課徴金から控除す るとしている。 「措置減免制度」は 法定要件(違反事業者が公取委の調査開始前に提供する情報など)に該当すれば課徴金 を減免する制度で、公取委の立入検査前の一番目の申請者は課徴金を免除、2番目の申請者は50%減額、三番 目の申請者は30%減額。立入検査後についても減免措置を講じ先着3者に一律30%減額するもの。 このほか、悪質かつ重大な事案についてより積極的に刑事告発を行うために「犯則調査権限」を導入。例えば 違反被疑行為が発見されると、裁判官へ許可状を請求し、臨検・捜査・差押えの手順を踏み調査を行い、公取 委から検事総長へ告発。地方裁判所へ公訴を提起、訴訟を経て判決に至るという流れ。これに関しては犯罪捜 査ために行政調査権限が行使されることのないよう、犯則調査部門と行政調査部門との間にファイアーウォー ルを設ける。その概要は▽犯則調査部門として「犯則審査部」を新設し、行政調査部門と所掌事務を明確に分 離する▽犯則事件の調査を行う職員の指定は、「犯則審査部」の職員についてしか行えないものとする▽「犯 則審査部」の職員は行政調査権限を行使する審査官には指定できないものとする▽その他、犯則調査規則に所 要の規定を置くというものだ。 さらには、「審判手続きなどの見直し」も行った。その改正の主な内容は、従来の勧告制度を廃止したこと。 今後は意見申述などの機会の付与といった事前手続きを経た上で、違反行為があるときは直ちに正式な処分で ある排除措置命令を下す。公取委における審判手続きは、すでに出された排除措置命令・課徴金納付命令に対 する事後審査という位置づけとする。また、従来は違反行為がすでになくなっている場合であっても、特に必 要があると認めるときは、違反行為がなくなった日から1年以内であれば勧告を行うことができたが、改正後 は3年以内であれば排除措置を命ずることができるようになった。これまで課徴金納付命令は審判手続きが開 始されると失効していたが、審判手続きが開始された場合であっても失効しないというものだ。 ------------------------------------------------------ 《深刻な「官製談合」に発展》
【解説】今回、独禁法が抜本的に改正されたのは、初めて課徴金制度を導入して法改正を行った昭和52年以 来、28年ぶりのこと。しかし、その後も談合は依然として後を絶たず、建設業界に暗い影を落としてきた。昨 年も旧日本道路公団発注の鋼鉄製橋梁工事、成田国際空港発注や防衛施設庁発注の電気関連工事などで大規模 な入札談合事件が発覚。また、つい最近も大阪市発注の街路樹維持管理業務を巡る競売入札妨害で、大阪地検 特捜部は、同市ゆとりとみどり振興局総務部庶務課長らを談合に関与したとして11日に逮捕するなど社会問題 となっている。こうした談合は、「官製談合」に発展するという深刻な事態だ。 公正取引委員会事務総局近畿中国四国事務所の調べでは、入札談合で法的措置とった件数は昨年10月末現在で 11件。平成16年度末の22件に対して、平成17年度は半年間で早くも半分が法的措置をとったことになる。法的 措置の件数は年度ごとに増減はあるが、「談合などの不正行為は、摘発を強化しているものの一向に減らない のが現状。これまでも独禁法の抑止力が弱いのではないかという考えがあった。改正独禁法には大きな期待を 寄せている」という。 改正独禁法の大きな目玉は「課徴金減免制度」だろう。米国やEUは、同制度を用いて国際カルテル事件など について摘発を強化している。韓国や豪州などもすでに導入済みだ。また、欧米では日本以上に高額なペナル ティーがあり、大きな抑止力として効果を発揮し談合が大幅に減少しているという。今回の課徴金の引き上げ と減免制度がうまく機能し、日本の建設業界も談合・横並び体質から脱却して、真の競争社会を構築してもら いたい。 (水谷 次郎)