トップページ  ▶建設業の新たな針路を探る  ▶海外における産・学・官

  大西教授 ここで海外における大学の様子(土木系)に少しふれておきますと、日本とは全く違いますね。海外の土木・建築分野の先生は、ほとんどが自分たちの会社を持ち、ハイレベルなコンサルタントとして活躍しているのが現状です。日本と異なり、プロフェッショナル・エンジニアとして活動しているために、国などが第三者的な立場で判断しなければならないケースは学会に依頼しています。一方、個別には教授と相談していますが、相談しますと、高いコンサルタント料を請求されます。産・学・官交流といっても、教授も産・官を渡り歩いていますから、もともとあえて交流するという意識はあまりないように思います

  足立部長 産・学・官の壁がない?
  大西教授 もちろん研究や教育が好きな先生は大学にずっと残り、研究や教育面で特色を発揮しています。通常出席するのは学会、それと、著名になるとナショナルアカデミー・オフ・サイエンスまたはエンジニアリング。いわゆる日本でいう学士院のような存在です。学術振興財団のような組織にあたるNSF(National Science Foundation)にも顔が利くようになります。こうしたトップグループの学者の中から政府が特別な委員会をつくっています。一方、アメリカの学会は、ボランティア組織として非常にしっかりしており、土木系ではASCE(アメリカ土木学会)が一番大きく権威を持っています。三人以上の推薦がなければこのメンバーになれませんし、メンバーになると社会的にも評価されたことになります。民間出身の会長も多く(女性も)プロフェッショナルの団体として学会を運営しています。そこには、もちろん学や官の人たちも入っていますので、自然と学会が産・学・官の交流の場になっています。技術的なことはもちろん、様々なテーマが話し合われております。
  いま、我が国でも土木学会などで産・学・官の交流が行われていますが、なかなか官の人たちが入っていかないのが実情だと思います。日本の場合、官の人たちは、学会のような場は敷居が高いと感じておられるのでしょうか。それとも忙しくて、そこまで気が回らないのでしょうか。アメリカのASCEの集会などでは、参加することで情報を得ることと、人と知り合いになることでメリットを感じている人たちが多いようです。したがって、学や官の人たちよりもむしろ民間が多い。民間主導型といえるでしょう。そしていろんなテーマでグループディスカッションを行っています。有名なダボス会議の土木版みたいなものですね。新技術に関しても、情報交換ネツトワークが出来上がっており、新しい研究や技術のニュースはものすごく早く流れる(そこにつながっていないと、情報は来ない…アメリカでも人間関係は大事、ちなみに同窓会が極めて有効に機能している)。新情報に興味を示し、取り入れる人がいれば、入札などの競争材料に繋げていくといったシステムが構築されています。
  足立部長 土木学会の全国大会が九月に立命館大学のびわこ・くさつキャンパスで開催されます。私たちもこうした場をとらえて、産・学・官連携のコーディネーターとしての役割を果たしていくことが必要なんでしょうね。
  大西教授 マスコミも注目していますので、社会に向かって情報発信できるよい機会だと思います。
  足立部長 五月十日に開かれた土木学会関西支部の総会で、新支部長にジェイアール西日本コンサルタンツの星野鐘雄社長が就任されました。そのあいさつの中で「品確法ができたのを機に、土木学会がこれまでなおざりにしてきた品質問題について産・学・官、力を合わせて勉強していきたい。また、総合評価にも関心を持ち、近畿地方整備局だけが頑張っているという構造から府県や市町村も活発に取り組んでいく構造に変えていくためにお役に立ちたい」と語っておられました。私たちとしても、非常に心強く思っています。総合評価については、直轄事業において積極的に取り組んでおり、新技術をいろんな形で取り入れていますが、府県、とりわけ市町村はまだまだそのような力はありません。そのようなところも、学でフォロー・支援していただければありがたいと思っています。
  大西教授 総合評価については、やはり国が実績を作っていかなければいけないと思います。私も地方公共団体の力では、まだ難しいと思いますね。それと技術を評価するということであれば、合わせて技術者の待遇をどう改善していくかが問題でしょう。人材育成の面からも、これが今後の大きな課題になると思います。昔の3Kほどではありませんが、いまでも「建設業はしんどい仕事」と学生はみているようです。まあ、やる気の問題でしょうが…。