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新技術活用方式の制度拡充 ・・・・ 足立部長
維持管理を含めた提案も評価対象に ・・・大西教授

  足立部長  いま、情報通信技術やIT技術が日進月歩で進んでいます。私たちは、そういったものと土木技術とを融合させていくために、情報通信産業の研究者だけでなく、メーカーの皆さんとともに勉強会を行っています。しかし、この勉強会で私も痛感しているのは、お互い参画している企業が決定的な開発については、お話しされないことです。いろんなノウハウが、他に流れていくのを非常に嫌っているのでしょうね。皆さんは様子をみながら小出しにされているようです。一対一になればそうでもありませんが、大勢の場になると、やはり自分たちが持っている宝物を皆で共有したくないといった意識が働くのでしょうか。なかなか次の一歩が踏み出せないところがあります。そこを解決するシステムを作らなければ、いつまでたっても次の扉が開かないと痛感しています
   こうした中で、いま本省では新技術活用方式の制度を拡充し、積極的に活用していこうという動きがあります。この制度は、いま先生がお話されたように現場で新技術を使っていかなければならないという観点に立って、フィールド提供型の新技術を増やしていこうというものです。実物大のフィールドを提供して新技術を試し、これがうまくいけばもっと普及させていこうという趣旨ですね。現場は、毎日の工事に追われて新技術を取り入れると手間も時間もかかる、またフォローアップもしなければいけない、といった様々な課題もありますが、これらの問題点を克服して、私たちも新技術活用方式に一層力を入れていかなければならないと思っています。

対談大西有三・京都大学大学院工学研究科教授足立敏之・国土交通省近畿地方整備局企画部長

   大西教授いまお話されたのは、ある意味では工事の中の単品ですよね。単品に関しては結構連携がとりやすいし、それぞれの企業のノウハウもつぎ込めやすい。一連のある程度大きな工事になると、設計も含め、なかなか連携がとりにくい面がありますね。
   足立部長はい。それを解決していくために、いま発注方式でデザインビルドなどを採用し、目的物の構造変更もOKという発注方式を試行的に行っております。具体的に申し上げますと、和歌山県内で施工された橋梁は、デザインビルドによって全く新しい構造で橋を架けることが出来ました。先生がおっしゃっているのは、そういう全体の構造物に新しい提案を受け入れられるような新技術の活用に我々がもっと門戸を開いていかなければいけない、ということだと思います。そのためには、デザインビルドの活用についても、まだまだ検討する余地が多いと思っています。

   大西教授それと、今はやりのライフサイクルコストを考慮した設計・施工の議論の中で、将来の維持管理も含めた幅広い提案も評価されるようになれば、産にとって非常にメリットがあると思います。私たちにとっても、産が提案するシステムの中に、大学にある先端的なシーズを入れていただければ研究をやる側としてもたいそう励みになります。
   足立部長そうですね。私もそういったところを活性化しなければいけないと思います。先ほどお話しましたデザインビルドにしても、私たちが方向をある程度決めて、その範囲内で行うということになっていますが、もう少し前の段階で産・学・官が連携してもっと新しいアイデアを入れられるような、そのようなプロジェクトをうまく作っていけるようなシステムが必要なんじゃないかと…。
大西教授そういう面では、土木構造物は特殊なんですね。他分野の電化製品やコンピューターなどは、産・学・官連携でいろんなことをやろうという話でも、対象が非常に限定されている。例えばコンピューターのCPUを経済産業省主導でグループを作って世界で一番早いコンピューターを作ろうという場合の産・学・官の連携では、官はマネージャー役に徹していると思われます。モノが出来ればいい。後は産で製品に仕上げていく。建設関係の産・学・官の連携とでは、ずいぶんニュアンスが違いますね。建設は一品生産。その後は、官がユーザーになり代わって維持管理を行う。三者それぞれの役割が異なる。そのあたりを一般の人にも認識してもらいたいと思います。建設関係が遅れているとか、全く努力していないとか、癒着しているとか、話し合っていてもすぐ別の方向へいってしまう(笑い)といった皮相的な見方が強いですね。建設業界を含めた特殊性を世間に訴え理解してもらうことも必要だと思います。
   足立部長 いまのお話に関連しますが、近畿地区でも産業を活性化させるために経済産業省や国土交通省、財務省ら国の出先機関で協議会を結成しています。そこでは、産と学が連携して新技術を活用し新しい商品が開発されれば、そこに国が支援するという仕掛けになっています。ただし、建設の分野では、官である私たちもユーザーでもあるわけで、そういったところで先生がおっしゃったような目で見られがちなんですね。ただ、そこはもっと国民の理解をきちんと求めて、産・学・官の連携を進めることによって品質の良い社会資本が出来るなど、そういった認識を深めていただくことが必要だと思います。産・学・官の連携は、おそらく建設関係が一番最初にやり始めたはず。ですから、私たちも尻込みをしていてはいけないと思います。

情報提供と官のニーズ

現場を紹介する新しい情報誌発行へ・・・・ 足立部長
人気の現場見学会、もっとアピールを ・・・大西教授

   大西教授 土木の場合は、産・学・官連携でも、まず人であり、人の繋がりが非常に強いんですね。そのあたりが外から見ると、よく分からないらしい。逆に言えば、人をうまく使っているのが建設業界のユニークなところだと思います。大学でも限られた範囲でしか教育していない分野に比べて、土木系の教育は、もともと自然を対象にし、かつ出来たものは人工的な構造物であり、そこに力学、計画、先端技術が入り込んで、非常に幅広い。卒業する学生も、先入観にとらわれないユニークでおもしろい資質を持った人が多いと言われています。そういった人材がたくさんいることを国交省の方でも、もっとアピールしてほしい。また、土木のよさを知ってもらおうと、最近は産も一〇〇万人の市民現場見学会(日本土木工業協会の主催)を実施しており、これは評判が非常に良いと聞いています。関空二期の工事にしても、ほぼ舗装が終わった後にその上を歩く体験会の見学者を募れば、参加者が極めて多い。ところが、この見学会の人気に公共工事への理解が結びついていない。
   足立部長 国土交通省も、かなりそこは意識しています。私も関東の宮ケ瀬ダムの仕事を担当している時に、広く市民の皆様に現場を開放し、バス会社とタイアップするなど工夫して現場見学会を行っていました。宮ケ瀬ダムだけで年間一〇万人が参加していましたね。一度工事現場を見ていただくと、完成した姿をまた見に来られる人もおられ、出来上がった構造物にも愛着をお持ちになるようです。それが非常に大事ことで、街の道路や橋を造るにしても、そこを一度見ていただくと、きっと「工事の時に一度見た」と、道路や橋に愛着を持っていただけると思います。また、現場サイドも、見ていただくことになると「いつも現場をきれいにしておかなければいけない」という良いリアクションもありますし、さらには工事に対する自分たちの誇り、公のものに参画しているという強い意識が持てます。私たちも、ぜひ土工協さんとも一緒になって現場見学会を活発化していきたいと思います。
   大西教授 造るばかりでなく、うまく見せるテクニックも必要ですね。
   足立部長 いま、これまでに完成した土木の構造物、工事中の第二京阪道路などの現場を紹介する新しい情報誌の企画を進めています。秋ぐらいまでには発行したいと考えています。
   大西教授 その企画ははいいですね。できればその情報誌の中に工事に携わる人物人間模様、工事の難しさ、技術のポイントみたいなものも入れていただきたい。一般の人は、ただ単にコンクリートを打って、鉄を入れて、それで構造物が出来上がるだろうという感触しか持っていませんから。足立部長なるほど。現場の声を入れるとおもしろいですね。
大西部長ところで冒頭でも出ていましたが、官側のニーズはどういう点でいま外に発信されてきているのですか。ニーズとシーズのマッチングがよくないとずっと言われてきました。学・官の会議だとニーズとシーズが比較的分かりやすいのですが、もう少し広く産に対しても分かりやすく官のニーズを表現する場、チャンスはありませんか。
   足立部長 そうですね。従来から私たちが求めている技術の公募を行ったことがありますが、どうしても先生がお話されたように狭い単品みたいなところばかりの技術募集になってしまっているので、建設業界という広い目でみた場合、必ずしも要請に応えられているかと言えば、正直言って出来ていないと思っています。
   大西教授 第二名神や明石海峡大橋のような大きな構造物が何年か後に着工という目標があると、ものすごい勢いで技術は裾野を広げていくのですが、いまはそのような大きなプロジェクトはなくなってしまっております。それでは、こうした状況の中で官側のニーズは一体どこにあるのか、何をやろうとしているのか、周りの人たちがもう少し詳しく知る機会を作ることも必要だと思います。
   足立部長 建設技術展などを通じて私たちが求めている技術の一部は紹介していますが、おっしゃるようにしっかりした形で情報提供が出来ていませんので、これから考えてみます。本当に私たちが困っていることを、分かりやすく世の中に発信しているかと言えば、発信できていないですね。そこを工夫して解消しなければ、現場で力の入れどころを間違ってしまう危険性がありますから。
   大西教授 例えばOBの方々が産との調整を図り、コーディネーターの役割を果たすことも必要でしょう。大所・高所からお互いの考え方をうまくマッチングできる人がいると助かるのですが、いまは別の方向に行ってしまっていると思います。