「民家は世界最高水準のエコロジー建築」 木、土、石、竹、紙・・・。自然の素材でつくられた古き民家は歴史と現代、 未来をつなぐパワーを持っている。民家をつくる伝統的木造構法の復権・再構 の活動を続けている金沢工業大学名誉教授で木の住まい考房主宰の鈴木有さん は3日、綿業会館(大阪市中央区)で講演した。テーマは「民家は世界最高水 準のエコロジー建築」で、木造構造学の視点から昔ながらの民家の価値につい て持論を展開した。鈴木さんの講演はNPO法人・日本民家再生リサイクル協 会(JMRA)の「きんき民家塾」(第5期生)講座の一環で実現したもの。 古材を使った古民家再生による歴史的街並みづくりに力を入れている小原公 輝・輝建設?代表取締役社長(JMRA理事)の仕掛けだ。
【写真上:講演する鈴木さん・JMRA理事小原公輝さん(右】
【写真下:熱心に耳を傾ける塾生たち】
鈴木さんは、京都大学大学院工学研究科修士課程修了後、同大学防災研究所助手を経て、1976年金沢工業大学 建築学科教授に。同大学名誉教授で現在は京都で木の住まい考房の主宰者。莫大な木造被害が生じた阪神淡路 大震災を機に、伝統建築技術を見つめ直し、実物大住宅棟の研究・実験からその仕組みを解いた。伝統構法の 復権と再構の活動に努める。歴史文化を次世代に伝える1つの目安でもある古民家が次々と壊され消え去る状 況の中で、現代に静かに生き残る古民家には、「見返りを求めないで、民家をつくり続けてきた職人たちの熱 い想いが込められている」といい、職人の確かな技術でつくられた古民家を見ると、「危機的な状況にあると は思わない」と力を込めた。 世界に誇れる日本の伝統的軸組構法などの建築技術は家づくりを生業とする職人の財産だ。鈴木さんは「(施 主は)坪単価の安い家づくりを求めがち。結局、坪単価の抑制は職人の確かな技術や、日本の伝統的建築を失 うことにつながる」と懸念する。家づくりは職人の技の見せ場、職人の技を活かす場所。「職人に腕を振るっ て頂くためには必要な経費は当然支払うべきだ」という。「家づくりを通じて、職人の技を次世代に伝えると いう1つの社会的システムの構築を意識したい」と話した。 鈴木さんは全国のあちこちで家づくりについての講演、古い建物の診断・改修・保全の助言など活動の中で地 域の家づくりを見、地場の人たちの共通する住宅建設には「国産の木材、とくに地場の木の使用や地場の自然 素材とその加工品の活用、地域の伝統的木造構法を活かした家づくりの目標がある」といい、また「伝統的建 築技術を家づくりの主役に、現代の技術を補助的に使い、維持管理の仕組みを取り入れて長く住み続けられる ような家にしたい」といった家づくりへの想いがあるという。 また講演テーマにふれ、エコロジー建築とは「地球環境、その建物が建つ地域環境、そこに住む人という三つ の対象に負荷をかけない建築である」と説き、この中でも「地球環境への負荷抑制を考えたい」と言及した。 木や植物、鉱物の天然の資源を素材とする伝統的な民家をつくる木造構法は自然の摂理にかなう合理性があ り、「世界最高水準の環境 保全型構法だ」といい、建築分野では「優れた1つの完成型」との見解を示した。 同日は「民家の耐震性能の検証」と題して、研究成果を踏まえながら、自然災害に耐え抜いてきた木造構造の 仕組みなども語った。小原社長の話 民家が続々と壊され消え去る中で、20年後には日本の民家すべてが失わ れるのではないか、と危惧されている。長い歳月に耐え抜いてきた古民家を何とか残し、活かしたいとの思い で、きんき民家塾を立ち上げた。5期目に入り、40人が入塾された。古き良き民家の理解者を増やしたい。若 い世代には住み難いといったジレンマがあるが、環境さえ整えれば住み心地の良い家になると思う。(冒頭の 挨拶から) 塾生の声・蛭田ひとみさん===================================== 今、奈良に民家を借りて住んでいるんですね。先進性を求める現代建築とは何か違った魅力が感じられます。 木造には美を感じ、天然の素材の大切さを実感しています。古いけれど何か新鮮で温かい、どこか落ち着いて いて懐かしい、そんな空気を醸していて、何というか、心が癒されます。 =================================================