(社)土木学会・三谷浩会長の特別講演から (社)土木学会の三谷浩会長は2月23日、大阪市中央区のホテル日航大阪で 「土木技術者がグローバル社会で活躍するために」をテーマに特別講演を行っ た。この中で減少する日本の公共投資から海外が求める土木技術、海外で成功 している事例までスライドを使って詳しく紹介。「海外の建設投資額は全体で 50兆円を超えている。しかし、そのうち日本の受注額はせいぜい1兆円程度」 と指摘した上、東アジア諸国や欧米との国際交流が進展する中、日本の建設企 業も情報収集能力を身につけ、適切な企画提案を行うなど、「優れた日本の土 木技術を海外でも生かしてほしい」と強調した。同講演会は土木学会と国土交 通省近畿地方整備局の共催で開かれたもので、官公庁、建設会社、コンサルタ ントの代表ら約300人が出席。講演要旨は次のとおり。 いま、日本の製造業は東アジアで6割の会社が支店を持っている。世界の人口 は約64億5,000万人。その中で東アジアと日本を加えた人口は、世界の約32% を占めている。アメリカ、ヨーロッパ、そして東アジア+日本、これがいま世 界三強といわれている所以である。このため日本は、もう東アジアとの交流な しでは生きていけない。中国、韓国、台湾などが経済発展を遂げているのも、 「社会資本の整備が重要である」と考えているから。このことを我々は、もっ とよく認識しなければいけない。
日本は、諸外国と比べて公共投資がGDPに対して非常に高いという批判がある。もう、公共事業は十分では ないか・・・と。しかし、2004年の主要各国・地域のGDPと建設投資における対GDP比をみると、日本は 10.4%、アメリカは8.8%でいまはどんどん増えている。フランスは11.0%、中国は24.4%、韓国は17.0%。 この数字で先進国も社会資本整備を急速に増加させているというのが実情だ。減少しているのは日本ぐらいで はないか、という心配がある。 《東アジア、欧米との国際交流、さらに進展》 アメリカは1980年代に「荒廃するアメリカ」という時代があった。橋が落橋したり、橋の真ん中に穴があいた りするなど、問題になった。その後、アメリカは新しい交通予算法で投資規模を増加させた。いまだに根幹的 に道路投資を含めて40%(1998年〜2003年)、30%(2004年〜2009年)と増やしている。イギリスも2000年か ら急激に関係投資を増加。公共事業の必要性を先進国ですら認識して投資を増やしている。公共投資が増やせ る原因を彼らに聞くと、「よいパートナーを見つけること。メディアも含めて理解してもらうこと」だと。 最近、東アジアにおけるインフラ整備として「EAST ASIA」という新しい報告書が出版された。それ によると、2006年から2010年までに、電気・通信・道路などに毎年約2000億ドルのインフラ投資が必要とされ ている。その中で、具体的に中国への投資は約1,300億ドルと言われている。その中国は、2000年に北京と上 海を結ぶ高速道路が初めて開通した。その後、全体で8万5,000?のマスタープランを策定。2010年までに3 万5,000kmをつくる計画を立てた。しかし、この距離はすでに昨年超え、現在は4万?に達している。これは 日本の約11.5倍のペース。中国の最終的な構想は、7本の環状道路、9本の南北道路、そして東西に18本の道 路をつくること、いわゆる「7・9・18」、この数字がいまの中国の高速道路計画である。8万5,000?を、 恐らくかなり早い時期に達成してしまうだろうと思う。日本は先の国幹会議で7,800?でいいだろう と・・・。 高速道路などの建設は、何も中国だけではない。例えばフランスのインフラ整備では、ミヨー高架橋が昨年12 月14日に開通(全長2,460m、工期38カ月)した。最新の橋梁である。一番すごいのは、橋脚が約370m。私も現 地に行ったが、ピアを建てるという底力を感じた。 《成功へのキーワードは情報収集能力や企画提案など》 海外と比べて、日本の建設業の規模は決して小さくない。具体的に外国雑誌のエンジニアニュースレポートで 1981年のデータでは、当時の日本の建設企業は上位50社の中で1社か2社しか入っていなかった。ところが 1996年に売り上げランキングで7社、2003年には上位10社の中に5社入っている。日本企業の海外受注実績 は、1993年に初めて1兆円を超え、1996年で1兆6,000億円となった。日本が初めて海外受注に乗り出したの は1980年代から。そのころの日本企業の海外進出は非常にめざましいものがあった。そのほとんどが中近東 で、日本の大手企業はイラン、イラクなどで病院などの工事を受注した。ところがイラン・イラクの戦争が発 生。日本の業者すべてが、中近東から引き揚げたという経緯がある。 現在、海外における全体の建設投資額は、約50兆円である。そのうち日本の受注額は、せいぜい1兆円程度。 外国企業は、日本に比べてはるかに高いというデータが出ている。しかし、日本企業の中にも、いま、海外活 動を見直しているところもあり、全体のシェアの20%を海外に求める大手企業も出てきた。海外活動の本格的 な動きとしては、国内業務の補完から経営の柱の1つへ、受注額重視から収益重視へ、ODA依存から市場の 多様化へ、さらにデザインビルドやPFIの付加価値の高いプロジェクトへの取り組みなど、新しい視点のも とに挑戦と戦略を試みている。建設コンサルタントは、減少するODAと低い収益率、国際競争力などが悩み となっている。経営体質の強化、人材の効率的活用などが求められている。 今後は大学と同様に国の研究機関でも着実に学術研究交流が拡大する。グローバル社会が求める国際交流、ナ ショナルセキュリティの向上、土木技術の向上やシームレス化、知的向上が重要となるだろう。我が国は、防 災、耐震技術、環境、先端技術、鉄道、トンネル、港湾、橋梁、ダム、交通安全など、優れた土木技術を有し ている。成功している海外の事例も多い。例えば、ボスポラス海峡地下横断トンネルやシドニーハーバートン ネルでは沈埋トンネルを施工。台湾高速鉄道では、700系車両を用いた日本の新幹線システムを基本としてい る。受注競争では、フランスやドイツに先行されたが、台湾が日本風土に似ていることに着目し、最終的に台 湾が日本企業の新幹線を採用した。 成功へのキーワードは、情報収集能力、企画提案、プレゼン、技術力、計画・設計。海外で求められるのは幅 広い技術力、マネジメント能力、コミュニケーション能力、個人の資質と向上心である。 (みたに・ひろし)1958年3月東京大学工学部土木工学科卒、同年4月建設省(現国土交通省)入省、1988年 1月道路局長、1990年7月技監、1992年6月建設事務次官、1995年3月首都高速道路公団(現首都高速道路会 社)理事長、世界道路協会会長(1997年〜2000年)2001年6月財先端技術センター理事長。71歳。